研究実績の概要 |
①胆管癌におけるインテグリンβ6発現制御因子を明らかにするため、ITGB6高発現胆管癌株細胞HuCCT1と低発現胆管癌株細胞HuH28を用いて遺伝子発現解析を行い、発現量が2倍以上異なる遺伝子を抽出した。パスウェイ解析によりPI3K-Akt経路と関連するEREG, AREG, FGF2, TGFA, ERBB3, MET, EGFR, KRAS, MYC, CCND1, CDK6、またFocal adhesion経路と関連するRAC2, RAK6, BIRC3がHuCCT1で高発現を示していた。 ②胆管癌株細胞においてITGB6発現を抑制し癌細胞の性質変化を解析することにより、インテグリンβ6の治療標的および悪性度評価の指標としての有用性を調べた。方法は、CRISPR/Cas9システムにより HuCCT1の ITGB6ノックアウトを行った。単一細胞クローニング後ダイレクトシーケンス法で変異を確認し、インテグリンβ6蛋白質の発現減衰を蛍光免疫染色で確認した。その後、移動能、浸潤能、遊走能、増殖能、コロニー形成能を調べた。さらにS100P、MUC1、CD56の発現を蛍光免疫染色で調べた。その結果、4つのホモ接合変異と1つのヘテロ接合変異の細胞株が得られ、インテグリンβ6蛋白質の発現は4つの細胞株で減衰が確認された。野生型と比較して、移動能、浸潤能、遊走能はほとんどすべてで有意な低下がみられた。一方、増殖能、コロニー形成能は1つの細胞でのみ低下していた。蛍光免疫染色ではS100P、MUC1の軽度発現減衰とCD56の軽度発現増加を認めた。 本研究で作製したITGB6ノックアウト胆管癌細胞株の解析で、β6インテグリンが胆管癌細胞の性状や機能と関連することが示された。これらの細胞株は、肝内胆管癌の多様な性状と進展機序の解明にin vitroモデルとして役立つと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
ITGB6ノックアウト胆管癌細胞株を比較的早期に作製することができたため、インテグリンβ6発現制御因子の解明にもこれらのノックアウト胆管癌細胞株を用いることを変更する。 ①インテグリンβ6発現制御因子および経路の解明:本研究で作製した4つのITGB6ノックアウト胆管癌細胞株を用いて、遺伝子発現解析により抽出したインテグリンβ6発現制御候補因子について、リアルタイムPCR法によりmRNAの発現量を調べる。また蛋白質発現をウエスタンブロッティング法により確認する。本実験により胆管癌においてITGB6の発現に関わる重要な因子を明らかにする。 ②肝内、肝門部、遠位胆管癌組織におけるインテグリンβ6と発現制御因子の解析:ヒト肝内(大型胆管,小型胆管)、肝門部、遠位胆管癌組織を用いて、インテグリンβ6とインテグリンβ6発現制御因子の発現を免疫組織化学的に解析し、発現の相関や臨床病理学的所見および予後との関連を明らかにする。外科切除材料を各50例以上用いる。本実験によりインテグリンβ6と発現制御因子の臨床病理学的意義を示すことができる。 ③ITGB6ノックアウト胆管癌細胞株移植マウスによる腫瘍評価:ITGB6ノックアウト胆管癌細胞株をヌードマウスへ移植し、腫瘍形成能の評価、病理組織学的解析、肝内胆管癌の亜型分類に関わるマーカー(S100P, TFF1, CRP, CDH2, N-cadherin, NCAM, Ki-67,粘液)について免疫組織化学的解析を行い、野生型細胞株と比較する。本実験によりインテグリンβ6の胆管癌の治療標的分子または悪性度評価の指標としての有用性を示すことができる。
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