研究実績の概要 |
潰瘍性大腸炎は原因不明で慢性持続性の難治性炎症性腸疾患で、長期経過例では大腸癌が発生することがあり、炎症性発癌と呼ばれるが、その分子メカニズムは詳細には明らかになっていない。長期経過(罹患年数が7年以上)の潰瘍性大腸炎に対しては、炎症性発癌早期発見のための内視鏡的サーベイランスが必要とされているが、患者や医療経済的負担の軽減、サーベイランスの効率化のためには、その発癌リスクを予測するバイオマーカーの開発が必要である。我々はこれまで、(1) 潰瘍性大腸炎粘膜にはDNA二重鎖切断(DSB)が多く発生している事、(2) 発癌早期病変の発生や進展にDNA損傷応答(DDR)の破綻が関与していること、を明らかにしており、本研究ではDSBやDDRの破綻が発癌リスクを予測するのバイオマーカーとなりうるかについて検討した。その結果、(1) 炎症性発癌を伴う症例では伴わない症例よりもDSBが高頻度で発生していること、(2) 潰瘍性大腸炎の非腫瘍性粘膜では他の炎症性腸疾患と比較してDDRの破綻が高度にみられること、(3) DDRの破綻は、罹患年数が長くなるにつれて高度となることを見出した。また、(4) 直腸においては部位によるDDR破綻の程度にあまりばらつきがみられず、直腸生検標本でのDDRの検討がバイオマーカーとして再現性のあるものであることを確認した。今後は、直腸生検標本におけるDSB, DDRを検討し、これらが潰瘍性大腸炎における発癌を予測するバイオマーカーとなりうるか、引き続き検討する予定である。
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