研究実績の概要 |
これまでの、ヒト腫瘍検体を用いた組織学的検討により、諸臓器の幽門腺型粘液産生腫瘍における、MUC6とα1,4-linked N-acetylglucosamine(αGlcNAc)の、早期がんマーカー、悪性度マーカーとしての重要性を明らかにしてきた。さらに、これらの現象は、癌の悪性化に直接影響しているのか、それとも癌が悪性化した結果として見られる現象なのかを知るため、ヒト癌由来培養細胞に、MUC6遺伝子や、aGlcNAc糖鎖修飾を起こす唯一の糖転移酵素である、α1,4-N-acetylglucosaminyltransferase(α4GnT)の遺伝子を導入し、その影響を検討した。 肺癌、膵癌細胞株では、MUC6の発現により、細胞の増殖能、運動能、浸潤能が低下した。さらに膵癌株では、αGlcNAc糖鎖修飾の追加により、影響が増強された。また上清ではTFF2がαGlcNAcと結合し、発現増加していた。これらの分子会合により、MUC6が多量体化して粘性が増し、癌細胞の運動能を低下させる機序が考えられた。またactinの蛍光観察により、MUC6高発現の細胞周囲では、細胞運動に重要なphilopodia形成の減弱が見られ、その形成に重要なfascinの転写物の低下も確認され、細胞骨格蛋白の制御にMUC6が関わることで、悪性化を抑制している機序も考えられた。 これらの実験結果より、MUC6、αGlcNAcの発現低下は癌のマーカーだけでなく、effectorとして癌の悪性化に直接関わることが明らかになった。
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