世の中では様々な化学物質が使用されており、その中でも世界的に残留性有機汚染物質(POPs)が問題になっている。また、これまで医学の中では癌、認知症などの疾患や遺伝子異常などにのみ注目され環境を経由したPOPs等の汚染・蓄積などについての研究は皆無である。さらに、野生生物等を対象にした研究からPOPs等の汚染・蓄積が問題視されてきたがヒトへの調査については尿などの一部の検体を除くとヒトの検体を扱うことの困難さがあり、皆無である。 POPs等は有機物質でありホルマリン固定標本ではホルマリン中へ漏出してしまい汚染・蓄積を確認できないため各種組織サンプルを採取し凍結保存することとした。ヒトでの実際の汚染・蓄積についてのデータがないため本研究ではヒトにおける残留性有機汚染物質等が最も蓄積していると考えられる剖検症例の組織サンプルを採取し残留性有機汚染物質の汚染・蓄積の実態の解析を実施した。臓器としては当初予定していた皮下脂肪、脳、心臓、肝臓、腎臓、膵臓、消化管のみならず血液や生殖器などをそれぞれ約100症例で採取した。まずは特に高齢の少数症例の脂肪組織検体からPOPs等の検出を確認した。次に幅広い年代の多数症例で検出できるかを確認することとし、測定は質量分析器(GC×GC HRToFMSなど) による高感度分析を実施した。分析の結果、主なPOPsであるポリ塩化ビフェニル(PCBs)、ポリ臭素化ジフェニルエーテル(PBDEs)、有機塩素系農薬類(OCPs)、ヘキサブロモシクロドデカン(HBCDs)が解析した約50症例いずれにおいても検出できることを確認した。
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