研究課題
予後不良な難治性疾患であるアミロイドーシスの適切な治療および新たな治療戦略創出のためには、その成因解析、正確な病型診断は不可欠である。本研究では、ホルマリン固定パラフィン包埋(formalin fixed paraffin embedded; FFPE) 組織切片を用い、アミロイドーシス原因蛋白質同定のための新規技術開発を目指す。アミロイド関連蛋白質のプロテオーム解析と病理診断を結び付けるには局在情報が必要と考えた。そのために、組織切片上で生体分子や代謝物を直接同定し、その局在を可視化できるイメージング質量分析(IMS)を用いる。技術的な困難を克服し本技術を確立すれば、日常診療において免疫組織化学(免疫染色)を用いた間接的同定ではなく、アミロイドーシス原因蛋白質の直接的な同定が可能となる。令和2年度は以下の実験を行い、結果を得ている。平成31年度で検討した蛋白質抽出法、FFPE-FASP Protein Digestion Kit法(FASP法)を用い、アミロイドーシス症例と対照症例のFFPE組織から蛋白質を抽出し得られたペプチド溶液にて、LC-MS/MSによるラベルフリーの定量的ショットガンプロテオミクスを行った。その結果、代表的な既存のアミロイド蛋白質がアミロイドーシス症例で有意に認められた。さらに申請者は、得られたプロテオミクスデータを解析し、アミロイドーシス症例におけるラベルフリーの定量的ショットガンプロテオミクス解析手法を確立し、その診断的有用性を確認した。
3: やや遅れている
研究計画では、令和2年度の期間に、アミロイドーシス症例のFFPE組織を用いた比較プロテオミクスおよびIMSを行う予定を立てた。申請者は、令和2年度現在までに、アミロイドーシス症例12例、対照症例10例のFFPE組織から蛋白質を抽出し得られたペプチド溶液にて、LC-MS/MSによるラベルフリーの定量的ショットガンプロテオミクスを行った。その結果、血清アミロイドA、免疫グロブリンL鎖、免疫グロブリンH鎖、β2-マイクログロブリン、トランスサイレチンなどの代用的なアミロイド蛋白質がアミロイドーシス症例で有意に認められた。特にAL(AH)アミロイドーシス症例においては、ラベルフリーの定量的ショットガンプロテオミクス解析法により、κ鎖型・λ鎖型の定量的な鑑別を含めた病型の推定が可能となるデータが得られている。また、解析の過程で、原因物質が不明だったアミロイドーシス症例において、その主たる沈着物質がApolipoprotein A-IVであることも判明した。この結果を論文としてまとめ、Virchows Archiv(2021)に報告している。IMSによる測定は、他大学にオープンリソースとして設置されているultrafleXtreme (Bruker Daltonics)を用いている。しかし、複数の条件検討にも関わらず、良好な結果が得られなかった。最終的に装置の水平がわずかにずれていることが判明した。修理されたものの、データ取得状況は改善せず、IMSの測定は別の施設で行う予定である。今年度は、COVID-19の影響で距離の離れた施設の利用が困難であった。令和3年度は、COVID-19の感染状況をみつつ、IMS測定を再開したい。
LC-MS/MSによる比較プロテオミクスのデータ解析を行うことで、アミロイドーシスの症例ごとに異常蓄積蛋白質を同定し、アミロイドーシスの病型ごとに得られたペプチドのマススペクトルをデータベース化する。さらに、得られたペプチドデータをターゲットとし、アミロイドーシス症例と対照症例のTissue Microarray(TMA)ブロックから作成したスライド標本のIMSを行う。また、比較プロテオミクスで同定された原因蛋白質由来ペプチドのマススペクトルデータとIMSで得られたマススペクトルデータを統合解析する。最終的に、多くの症例でLC-MS/MSによる比較プロテオミクス、IMS解析およびデータの蓄積と、IMSのみでアミロイドーシスにおける異常蓄積蛋白質の同定と病型診断を可能とするシステムの構築を目指す。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件)
Virchows Archiv
巻: - ページ: -
10.1007/s00428-021-03073-x.
Biochim Biophys Acta Biomembr.
巻: 1863 ページ: -
10.1016/j.bbamem.2020.183503
Cancer Sci.
巻: 112 ページ: 906-917
10.1111/cas.14734
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10.1111/cas.14524