研究課題/領域番号 |
19K16570
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研究機関 | 公益財団法人がん研究会 |
研究代表者 |
山下 享子 公益財団法人がん研究会, がん研究所 病理部, 研究員 (50754975)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 粘液型脂肪肉腫 / テロメア維持機構 |
研究実績の概要 |
がん細胞の無限増殖性に重要な役割を果たすテロメア維持機構には、①テロメラーゼ活性化と、テロメラーゼに依存しないalternative lengthening of telomeres (ALT; テロメラーゼ非依存性テロメア伸長)、の2種類が知られている。テロメラーゼ活性化は、TERT遺伝子のプロモーター領域における点突然変異(C228T or C250T)を主な原因とする、TERT(テロメラーゼ逆転写酵素)の発現上昇によって生じ、ALTの最も大きな誘因は、ヒストンH3.3をテロメアに誘導するATRXもしくはDAXXの機能欠損である。 粘液型肪肉腫はTERTプロモーター変異が高頻度(約22~79%)に認められる数少ない肉腫であり、テロメア維持機構としてはテロメラーゼ活性化が主体(約59%)であるが、ALTも約5~18%に認められ、相互排他的ではない。またこれらはいずれも、腫瘍の進展過程で生じる2次的な変化と考えられ、組織学的に悪性度の高い症例でより頻度が高いと報告されている。組織型を問わず脂肪肉腫全体を対象とした研究では、ALTの方が予後悪化と強く関連していた。しかし粘液型脂肪肉腫に限定して、テロメラーゼ活性化やALTと、予後を含め臨床病理学的な関連について体系的に検討した報告はない。 本研究では、免疫染色やPCR、FISH法などを用いて両方のテロメア維持機構、さらにその原因となる遺伝子変化について調査する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2000年1月1日から2020年4月1日までにがん研有明病院で粘液型脂肪肉腫の原発巣切除手術を行った患者を抽出し、まず2008年から2013年までに切除が行われた38例の原発巣切除標本について組織マイクロアレイを作成した。これらの症例について、円形細胞領域の割合や多形性の有無、脂肪細胞分化の程度などについて組織学的評価を行った。これまでの報告通り、明らかな円形細胞領域が一定以上の割合で認められる症例は、予後の悪い傾向にあった。また作成した組織アレイを用いて、alternative lengthening of telomeres (ALT; テロメラーゼ非依存性テロメア伸長)の有無を判定するため、テロメアとセントロメアをそれぞれtexas redとFITCで標識したプローブを用いdual color FISHを施行した。ALTのみられる症例は少数のみであった。
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今後の研究の推進方策 |
さらに前後の年代の標本や再発病変も含めて組織マイクロアレイを作成し、これらの症例についても、HE染色による組織像の評価を行う。円形細胞成分の割合、多形性の有無、壊死や核分裂像などについて調査する。組織マイクロアレイを用いて、粘液型脂肪肉腫に特徴的な融合遺伝子(FUS-DDIT3, EWSR1-DDIT3)を確認する。FISH 法にて染色体上のテロメア DNA 検出し、ALTの有無を判定する。免疫染色による評価を行う(抗ATRX抗体、抗DAXX抗体、抗TERT抗体など)。FFPE標本(あるいは凍結標本)からDNA抽出し、TERTプロモーター変異(C228T or C250T)の有無を判定 する。アレイCGHを行い染色体異常の複雑性を判定する。凍結標本が利用可能な症例では、テロメラーゼ活性の有無を判定する。こうした実験結果を、臨床像とも合わせ、統合的に評価し、原発巣と再発・転移巣との比較を含め、染色体異常の複雑性とALTやテロメラーゼ活性化(あるいはTERTプロモーター変異)との関連、またこれらと予後や組織形態との関連、腫瘍進展における変化について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は症例の抽出や組織学的な評価を主に行い、CGHアレイなど高額な実験は次年度以降に行う予定としたため。まだ十分な研究成果が得られておらず、本年度は行わなかったが、次年度以降は海外の学会での発表も行う予定。
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