研究課題
がん細胞の無限増殖性に重要な役割を果たすテロメア維持機構には、テロメラーゼ再活性化とテロメラーゼ非依存性テロメア伸長(ALT)の2種類が知られている。粘液型肪肉腫はTERTプロモーター変異が高頻度に認められる数少ない肉腫として知られているが、少数例でALTが認められ、それらは相互排他的ではないと報告されている。本研究では、免疫染色やPCR、FISH法などを用いて両方のテロメア維持機構、さらにその原因となる遺伝子変化について調査した。がん研有明病院で粘液型脂肪肉腫の原発巣切除手術を行った83症例につき、まず組織学的評価を行ったところ、腫瘍の大きさ、FNCLCC grade、壊死の有無が、全生存期間・無転移生存期間の両方と有意な関連が認められた。組織アレイを作製し、Telomere-specific FISHを施行したが、ALTを示す症例はみられなかった。TERT遺伝子のプロモーター領域のhot spotにおける点突然変異(C228T or C250T)は、7割強の症例で認められたが、全生存期間および無転移生存期間、臨床病理学的特徴のいずれとも有意に相関しなかった。凍結検体よりRNAが採取できた症例でmRNA発現量をreal-time PCRで判定したところ、TERTプロモーターのhot spotにおける変異がない症例でも、TERT mRNAの発現が全例で認められ、陽性症例と同程度のTERT mRNA発現が認められた症例が7例存在した。こうした症例では、別のTERT活性化機構の存在が考えられ、さらにFISHとDNAシーケンスによる解析を進めたところ、TERTプロモーターのhotspot変異がない20例のうち、TERTの遺伝子内あるいはその周辺での染色体再構成が3例、TERTプロモーター領域の別箇所の変異(A161C, C237G)が2例に認められた。
2: おおむね順調に進展している
粘液型脂肪肉腫について、臨床病理学的評価に加え、ALTの有無、TERT遺伝子のプロモーター領域における点突然変異の有無、テロメア長測定、TERT遺伝子についてのFISH解析、予後との相関の有無など、基本的なデータは揃ってきた。
TERT遺伝子プロモーター領域のhot spotにおける点突然変異(C228T or C250T)がなくても、比較的高いTERT発現が認められた症例を主体に、TERT遺伝子の他の変異やプロモーター領域のメチル化など、他の腫瘍で報告されているような異常がないか検索していく。また対象として脱分化型脂肪肉腫でも同様の解析を行う。
今回はコントロールとして検索した脱分化型脂肪肉腫において、TERTプロモーター領域のhotspotにおける変異がほとんど見られないのに対し、TERT遺伝子の増幅が一部の症例で認められることが分かった。粘液型脂肪肉腫のTERT異常について追加で検討するとともに、脱分化型脂肪肉腫についても同様の検討を行うことで、脂肪肉腫全体についての理解が深まると考えたが、本年度中にすべての解析を実施するには時間が足りなかったため、次年度に延長した。
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Cancer Science
巻: 113 ページ: 1078-1089
10.1111/cas.15256.
Virchows Archiv
巻: Epub ahead of print. ページ: Oct 12.
10.1007/s00428-021-03218-y.