研究実績の概要 |
成人T細胞白血病リンパ腫(ATL)はHTLV-1感染を原因とする非常に予後不良なT細胞性腫瘍である。申請者らの研究により、CD30がATLに対して治療標的となりうること、また新規治療法として抗CD30抗体医薬がATL細胞に有効であることを示した(Nakashima M et al., 2018)。 本研究は、ATLの病態進展機序にCD30が関与することをゲノムレベルで検証することを目的とした。 ATL患者由来末梢血単核球8症例(急性型4症例、慢性型4症例)を準備し、症例毎にCD30+ATL細胞およびCD30-ATL細胞をセルソーターにより分画し、染色体構造解析(CGH)および遺伝子変異解析(Whole exome sequencing)を実施した。比較解析の結果、CD30+ATL細胞は、CD30-ATL細胞と比べて、有意に染色体構造変異を蓄積していることが明らかとなった。したがってCD30+ATL細胞は染色体不安定性が高いと考えられる。 これらの分子メカニズムを明らかにするために、CD30シグナルによる染色体への影響について検証した。その結果、CD30シグナルは内在性ROSの増加を誘導し、さらにROSを介して、DNA double-strand breaks(DSBs)を亢進することが明らかとなった。DSBsの亢進は染色体不安定性の原因となり得る。そこで染色体構造解析(CGH)を応用した結果、CD30シグナルは染色体構造変異を高頻度に誘導することが確認された。この結果は、CD30シグナルにより染色体不安定性が高まることを示している。上記の結果は、ATL患者体内で生じているCD30+ATL細胞の染色体不安定性とリンクする。 以上の結果より、CD30シグナルはROSを介してDSBsを増加させ、染色体不安定性を高めることから、ATLの病態の進展にゲノムレベルで寄与することが示唆された。
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