本研究は星細胞がビタミンA貯蔵細胞であり,ビタミンAの活性体であるレチノイン酸欠乏状態では星細胞が筋線維芽細胞様の形態となり活性化すること,膵がんでは豊富な線維化がみられることから,膵癌線維化の原因を星細胞でのビタミンA欠乏であると仮説をたてた.これまでの当研究室の成果から,レチノイン酸特異的代謝酵素であるCYP26A1の異常発現が星細胞やがん細胞でのレチノイン酸欠乏を引き起こし,さまざまな病態と関連することが明らかとなっている.これらを踏まえ,CYP26A1の異常発現を原因として膵星細胞が活性化して膵がん間質の線維化や悪性形質の促進に関わると考えた. 実際の検討では,膵がん組織ではCYP26A1は主にがん細胞において高発現していることが明らかとなった.また,CYP26A1の発現は分化の程度と有意に関連することも示された.令和2年度までに膵がん細胞株とCRISPR-Cas9システムを用いてCYP26A1発現欠損株を作製し,最終年度でその機能解析を行った.発現欠損株では種々の濃度のレチノイン酸処置によって増殖能,遊走能が低下し,アポトーシスの亢進が示された.また,TCGAのデータセットを用いた検討ではCYP26A1高発現群で優位に予後の悪化が示された.これらのことから,膵がん細胞で発現するCYP26A1は膵がんの悪性形質を促進することが示された. 作製したCYP26A1発現欠損株を用いて,RNA-seq解析を行った.網羅的解析により,CYP26A1が膵がんで重要な役割を果たすKRASシグナル経路の活性化に関わりうることが明らかとなった.またそのターゲットとなる分子として,細胞間接着装置の構成分子クローディンが候補と考えられた.今後は上記の結果に加え,がん細胞周囲の微小環境との関連も含めた解析を行い,膵星細胞を含む間質とがん細胞の相互作用の観点も加えて病態を解明していきたい.
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