研究課題
生体恒常性は、細胞の蛋白質合成と分解のバランスで保たれている。細胞内の蛋白分解は、ユビキチン・プロテアソーム系に代表される選択的分解と、オートファジー・リソソーム系に代表される非選択的分解とに大別される。近年、哺乳動物におけるオートファジー関連遺伝子群が解析され、細胞死や代謝異常、神経変性、自然免疫等のオートファジーの生理的な役割が解明されてきた。オートファジーはアミノ酸の栄養飢餓状態等において、リソソームに存在するmechanistic target of rapamycin complex (mTORC)1 が不活性化して誘導される。申請者は、PI3K-Aktシグナル伝達系がmTORC1を介したオートファジー誘導に着目し、細胞内リソソーム膜上でPhafin2とリン酸化酵素Aktの結合体の存在が必須であることを報告した。さらに、そのリソソーム膜上のAktがリソソーム局在性リン酸化酵素VRK2と複合体を形成することを示した。この複合体により、mTORC1を介さず、リソソーム膜上のAktの活性を維持し、リソソームの酸性化とその酸性化に伴う分解酵素の活性を正に制御して、オートファジーを誘導することを報告した。申請者は、この新規のオートファジー誘導機構が、抗原提示細胞内の病原体の分解を担う非標準的なオートファジー、特にLC3関連性貪食(LC3-associated phagocytosis; LAP)に関与すると考えた。LAPは自己免疫疾患や腫瘍免疫寛容において役割を果たすことが最近報告されており、新規の免疫応答制御機構を解明することによって、免疫系疾患の新たな治療方法の開発に貢献したい。
3: やや遅れている
ヒト由来のVRK2を認識する抗体が、マウスVRK2対する抗体を認識していたが、モノクローナル抗体の回収方法が、市販の試薬会社内で変更され、同定できなくなった。そのため、マクロファージ細胞株J774A.1および樹状細胞株であるDC2.4のRT-qPCRによる検出を試み、VRK2発現量の低下が同定された。また、これらの樹立細胞株において、LC3-associated phagocytosis(LAP)の減少が共焦点レーザ顕微鏡下にて確認された。
今後の研究の推進方策として、VRK2に対するポリクローナル抗体を作製後、アフィニティ精製を実施することを予定している。また、研究推進がやや遅れている状況であるため、サイトカイン等の複数のタンパク質を同時に定量可能なルミネックスアッセイを試みる予定である。また、ここ一年間長らく流行している新型コロナウイルスSARS-CoV2に対する研究も進めており、オートファジー抑制の機能を持つRNAアプタマーが、インフルエンザウイルス、ヒトコロナウイルス等のRNAウイルスの感染性を抑制する結果が実際に得られている(未発表)。この効果について、シュードタイプウイルス作製及び非分解性RNA修飾に関する検討を行い、新たな治療法の開発に貢献したいと考えている。
現在、新型コロナウイルスに対する新たな治療法に関する研究を優先して進めており、ルミネックスアッセイを実施していただく試薬会社を何処に依頼するかの検討する時間が取れていない。
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