研究課題/領域番号 |
19K16603
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
永田 奈々恵 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任助教 (80390805)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | L-PGDS / 睡眠 / 認知 / 行動 |
研究実績の概要 |
アルツハイマー病では、アミロイドβの沈着物である老人斑とタウ蛋白の沈着物である神経原繊維の変化が観察される。リポカリン型プロスタグランジンD合成酵素(L-PGDS)は、中枢において、クモ膜や脈絡叢の他、タウが多く発現するオリゴデンドロサイトに多く発現し、脳脊髄液中にも豊富に含まれる。L-PGDSは中枢でPGD2を合成して睡眠を誘発する。一方、L-PGDSは、疎水性低分子を輸送する働き(リポカリン能)を持つ。しかし、その役割は明らかになっていない。本研究では、L-PGDSを介した睡眠と認知症との関連を検証することを目的としている。これまでに、断眠処置を施すことによりリバウンド睡眠を誘発したマウスの脳内では、L-PGDSの発現が増強することを確認した。また、L-PGDS遺伝子欠損マウスの断眠処置後の行動量を測定し、野生型マウスと比較して断眠処置後の行動量が増加(睡眠量が減少)していることを確認した。一方、L-PGDSの持つリポカリン能の機能について調べるため、L-PGDS遺伝子改変マウスを用いて、平常時および断眠処置後の行動量を解析したが、その行動量は野生型マウスと差がみられなかった。さらに検討を進めるため、行動学的な実験にY字迷路試験や高架式十字迷路試験を加え、解析を進めている。また、アルツハイマー病モデルマウスの脳内L-PGDS量の変化を調べるため、L-PGDS濃度の測定系を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでにPGD2シグナルと断眠後の行動との関連を調べるため、野生型マウスやL-PGDS遺伝子欠損マウスを用い、L-PGDSの脳内発現が断眠処置後のリバウンド睡眠中に増強すること、逆に、PGD2のシグナル欠損(L-PGDS欠損)がリバウンド睡眠中の行動量を増加(睡眠の減少)させることを確認した。本年度は、当初新型コロナウイルス感染症の影響でマウスの繁殖数を減らしたため、やや遅れが生じたが、その後、繁殖数を増やし、実験を進めた。L-PGDSの持つリポカリン能の役割について調べるため、標的遺伝子改変マウスを用いて数種類の行動実験を行い、その解析を進めた。また、アルツハイマー病モデルマウスの加齢マウスの準備も進んでいる。おおむね順調な進捗状況といえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、L-PGDSとPGD2が認知に与える影響を検討するため、L-PGDS遺伝子欠損マウスや遺伝子改変マウスの行動の解析を更に進め、認知制御におけるリポカリン能の機能について検討する。アルツハイマー病モデルマウスは半年以上で病変が観察されるとされており、現在、適当な月齢になったので、このマウスの行動解析を進める。また、免疫組織染色によりアルツハイマー病モデルマウスの脳におけるL-PGDSの発現を検討する。また、ELISAにより尿や脳脊髄液中のL-PGDS濃度を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、新型コロナウイルス感染症の影響により動物の繁殖を抑えたことや、アルツハイマー病モデルマウスの繁殖状況が良くなかったことに加え、AD病変が観察できるようになるまでの飼育期間が半年以上かかるため、2020年度に行ったマウス行動測定の実験費用が予定額以下になった。本年度は、モデルマウスが適当な月齢になったので、このマウスを用いた動物実験を進める。本年度予算は、通常汎用される試薬、行動測定用の器具等の費用に加えて、遺伝子改変マウスの繁殖飼育費用として使用する予定である。また、研究成果発表のための学会参加の出張費、さらに論文投稿料、印刷代等の費用として使用する予定である。
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