アルツハイマー病では、アミロイドβやタウ蛋白の蓄積が観察される。中枢において、リポカリン型プロスタグランジンD合成酵素(L-PGDS)は、クモ膜や脈絡叢の他、タウが多く発現するオリゴデンドロサイトに多く発現し、脳脊髄液中にも豊富に含まれる。L-PGDSは、PGD2を合成して睡眠を誘発する一方、疎水性低分子を輸送する働き(リポカリン能)を持つ。しかし、その役割は明らかになっていない。本研究では、L-PGDSを介した睡眠と認知症との関連を検証することを目的としている。 マウスに断眠処置を施すことによりリバウンド睡眠が誘発される。これまでに、リバウンド睡眠を誘発した野生型マウスの脳内では、L-PGDSの発現が増強することを確認した。また、L-PGDS遺伝子欠損マウスの断眠処置後の行動量を測定し、野生型と比較して断眠処置後の行動量が増加(睡眠量が減少)していることを確認した。一方、L-PGDSの持つリポカリン能の機能について調べるため、L-PGDS遺伝子改変マウスを用いて、平常時および断眠処置後の行動量を解析したが、その行動量は野生型マウスと差がみられなかった。 アルツハイマー病モデルマウスは半年以上で病変が観察されるとされている。そこで、半年以上飼育したアルツハイマー病モデルマウスの行動評価を行い、野生型マウスと比較してアルツハイマー病モデルマウスでは短期記憶の低下がみられることを確認した。L-PGDS遺伝子の欠損が認知行動に影響するかどうかを確認するために、アルツハイマー病モデルマウスとL-PGDS遺伝子欠損マウスの交配を進めていたが、本年度はL-PGDS遺伝子欠損を欠損したアルツハイマー病モデルマウスを作出することができた。これらのマウスが適当な月齢に達したため、オープンフィールド試験、高架式十字迷路試験、Y字迷路試験などの行動実験を行い、解析を進めている。
|