研究課題/領域番号 |
19K16611
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
佐々木 充 (本田充) 京都大学, iPS細胞研究所, 学術振興会特別研究員PD (60836865)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー / 患者由来人工多能性幹細胞 / 病態モデル |
研究実績の概要 |
本研究は、根本的治療法のない顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD)について、幹細胞技術を起点として治療法提案を目指す。FSHDはDUX4遺伝子の異常発現に起因する遺伝性疾患であることは分かっている。しかし、未だ遺伝的背景から筋委縮へ至る病態メカニズムは分かっていない。特に、DUX4の遺伝子発現そのものは胎児期からすでに確認されるのに対し、実際には生後10代頃まで発症しないという、遺伝子発現と臨床像の間に大きなタイミングのずれがある。そこで本研究では、骨格筋細胞の時期特異性に着目しながら、ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)を活用して、患者の臨床的特徴に直結する表現型を見出し、その分子病態を検証し、FSHD治療の分子標的を求める。まず、様々な時期に相当する筋細胞へのiPS細胞の分化誘導と、遺伝子工学を技術基盤として、病態モデルの基礎となる新たな骨格筋細胞のモデル系構築を進めた。初年度は、iPS細胞から誘導される骨格筋細胞をいくつかの方法で作成し、その筋細胞において、成熟化の程度の指標となる遺伝子発現を調べることで目的の筋細胞が得られるかを調べた。試した分化誘導法のうちの一つで、出生後の時期に相当する遺伝子マーカーの発現が確認された。従来の分化誘導法では、胚性期か胎児期に相当する筋細胞が得られていたことから、本結果ではより発生上より進んだ段階の筋細胞が得られたことを意味する。また、FSHD患者由来iPS細胞から骨格筋幹細胞のマーカー遺伝子レポーター株を作製した。この株においても上記の分化誘導法が適用できることが確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度は、iPS細胞から誘導される骨格筋細胞をいくつかの方法で作成し、その筋細胞において、成熟化の程度の指標となる遺伝子発現を調べることで目的の筋細胞が得られるかを調べた。試した分化誘導法のうちの一つで、出生後の時期に相当する遺伝子マーカーの発現が確認された。従来の分化誘導法では、胚性期か胎児期に相当する筋細胞が得られていたことから、本結果ではより発生上より進んだ段階の筋細胞が得られたことを意味する。ただし、最終的に得たいと考えている成人段階の筋細胞は本結果では得られていないと考えられるため、引き続き誘導法の改善の必要がある。また、FSHD1型およびFSHD2型の患者由来iPS細胞から、骨格筋幹細胞のマーカー遺伝子レポーター株を作製した。これらのiPS細胞株においても、上記の分化誘導法でレポーターのシグナルが検出できた。その陽性細胞を単離して培養を継続したところ、筋細胞の性質をマーカー遺伝子の発現で確認することができた。ただし、筋細胞としては目立った異常は確認されず、これはFSHDの遺伝的背景を持っていても出生後の時期は目立った症状がないことに矛盾しない。さらなる改善後の分化誘導法の適用により、表現型が得られることが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、初年度に検討した方法のさらなる改善に加え、近年報告された別の有用な誘導法の応用も検討し、より成熟した筋細胞を誘導することを目指す。さらに、遺伝的背景の異なる複数症例のFSHD2型患者由来iPS細胞株から作られた遺伝子修復株の骨格筋幹細胞レポーター株を作製し、表現型や分子レベルでの病態の評価を可能とする実験系を構築する予定である。
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