加齢に伴う血液脳関門(BBB)の機能低下は脳血管疾患だけでなく神経変性疾患の要因にもなりうるが、両者の因果関係は明らかではない。また加齢に伴うBBBの機能低下の原因も十分に解明されていない。本研究課題では、BBBの機能低下のメカニズムを細胞老化現象の観点から明らかにすることを目指した。まず、血液脳関門の主役である血管内皮細胞に着目し、加齢に伴いマウス個体で細胞老化が生じているか否かを調べた。若齢マウスと高齢マウスの全脳より血管内皮細胞をFACSにより単離してRNA-seq解析を行い、細胞老化のマーカー遺伝子であるp16やp21、LaminB1などのmRNA発現を解析したが、発現量に大きな差が見られなかった。これより、脳の血管内皮細胞ではin vitroの線維芽細胞で認められるような細胞老化は生じていないことが示唆された。また、血管内皮細胞に特異的に細胞周期抑制遺伝子p16を発現させることのできるマウスを作製しp16の発現を誘導したが、顕著な表現型は確認できなかった。一方で、高齢マウスの血管内皮細胞では、種々の炎症性のサイトカインのmRNA発現が亢進していたことから、細胞レベルでの慢性的な炎症が生じていることが示唆された。そこで高齢マウスにおいて発現が顕著に低下していた遺伝子群に着目し、マウス脳微小血管内皮細胞株bEnd.3でこれら遺伝子を発現抑制したところ、遺伝子Xの発現抑制時に炎症性サイトカインの発現が亢進する傾向が得られた。このことから、遺伝子Xは血管内皮細胞の炎症を抑制していることが示唆される。今後はこのXの局在やタンパク質の量などを高齢マウスの血管内皮細胞で調べるとともに、遺伝子XのノックアウトマウスあるいはTgマウスを作製し、BBBの血管透過性を調べるとともに、周囲の脳細胞に与える影響を解析する。
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