研究課題/領域番号 |
19K16613
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
松本 穣 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学域), 助教 (30836250)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | AIRE / Ⅰ型糖尿病 / Xcr1陽性樹状細胞 / NOD |
研究実績の概要 |
I型糖尿病の患者は世界的に増加の一途を辿っており、緊急性の高い重要研究課題である。I型糖尿病の原因は未だに不明であるが、その原因究明にヒトと極めて類似した病態を示すNODマウスが利用できる。他方、AIREは遺伝性自己免疫疾患であるAPS-1の原因遺伝子であり、AIREの機能欠損に伴い内分泌臓器を標的とする自己免疫病態を呈する。AIREは主に胸腺髄質上皮細胞(mTEC)に発現し、胸腺内で組織特異的自己抗原の提示を制御することによって、自己寛容の成立に必須の役割を担うと考えられている。 これら2つの事実から、mTECや、樹状細胞を含む骨髄由来抗原提示細胞(BM-APC)においてAIREを付加的(過剰)に発現させれば、自己免疫病態、とりわけNODにおけるI型糖尿病を阻止できるのではないかと考えた。そこで、MHC class IIプロモーター 下にヒトAIRE遺伝子を挿入したトランスジェニックマウス(AIRE-Tg)を作製したところ、予想通り、糖尿病の発症を完全に抑えることが出来た。 骨髄移植の実験により、ヒトAIREを発現するBM-APCが糖尿病抵抗性を担うことがわかっていたが、更なる詳細な検討により、BM-APCのうち、膵臓β細胞関連抗原の提示に重要な役割を担うXcr1陽性樹状細胞(Xcr1+ DC)がAIREの発現レベルに応じて減少していることが判明した。 このAIREによる自己免疫病態修復メカニズムの解析により、原因不明の難病であるI型糖尿病の発症機構、およびAIREによる自己寛容の成立機構の解明への新たな展望が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
AIRE-Tgマウス由来の骨髄細胞を野生型のNODマウスに移植した際にもレシピエントでは糖尿病抵抗性が確認されることから、ヒトAIREを発現するBM-APCが糖尿病抵抗性を担うことが以前から判明していた。ただし、BM-APCの中において、その主たる役割を担う細胞種は同定されていなかった。本申請採択後の更なる検討により、ヒトAIREを発現するBM-APCのうち、膵臓β細胞関連抗原の提示に重要な役割を担うXcr1+ DCがAIREの発現レベルに応じて減少していることがわかり、糖尿病抵抗性の原因であることが示唆された。この事実は、NODマウスの膵臓ラ氏島に存在するXcr1+ DCが、糖尿病発症機序に重要な役割を果たしているというEmil R. Unanue教授(主要組織適合複合体MHC機能の発見によって1995年度・ラスカー賞を受賞)の研究室からの報告とも一致するものであった。 以上のように、AIRE-Tgの糖尿病抵抗性はAIREの付加的発現による自己免疫抑制機能の増強という単純な仕組みではなく、末梢での抗原提示細胞の機能不全によるものであることがわかった。この事実はAIRE-Tgの樹立当初の仮説からすると意外な結果であったが、胸腺および末梢トレランスにおけるAIREの関与を裏付けるものであり、計画はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
AIRE-TgはヒトAIREの発現レベルに応じて膵臓β細胞関連抗原の提示に重要な役割を担うXcr1+ DCが減少し、糖尿病抵抗性を獲得することが示唆されたが、それをより裏付けるための実験を計画している。すなわち、Xcr1+ DCを正常にもつNOD.scidマウス由来の骨髄細胞をAIRE-Tg由来の骨髄細胞とともに移植した際に、もしXcr1+ DCの減少が真に糖尿病抵抗性の原因であれば、NOD.scidとの共移植によりレシピエントマウスは糖尿病を発症すると予想される。 また、NODマウスの膵ラ氏島のBM-APCには、Xcr1+ DC以外にもマクロファージ(Xcr1-, F4/80+)が存在することが報告されている。Emil R. Unanue教授の支援のもと、同研究室への短期留学(2017年9月-11月)により、ラ氏島内からBM-APCの分離法を習得する機会を得た。この手法を用いた解析により、AIRE-Tgのラ氏島に存在するXcr1+ DC以外のBM-APCには明確な差がないことを確認することによって、Xcr1+ DCの減少が糖尿病抵抗性を担っていることをより強く裏付けることができると考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題の申請時において、AIRE-Tgの糖尿病抵抗性の獲得はヒトAIREを発現するBM-APCによるものであるとの大まかな仮説は立てられていた。NODマウスの糖尿病発症には膵臓のラ氏島に存在するBM-APC、特にXcr1+ DCの重要性がすでにEmil R Unanue教授の研究室より強調されていたため、AIRE-TgのXcr1+ DCに着目するまでに長い時間はかからなかった。こういった事情から、採択後の実験計画の決定およびその遂行は概ね順調に行われ、期待したとおりXcr1+ DCの減少が糖尿病抵抗性に寄与するという結果が得られた。そのため、必要最小限の実験でデータを得ることができ、次年度使用額が生じた次第である。 次年度においては、初年度に得られたデータや仮説を裏付けるための実験を含め、さらなる挑戦的な研究計画を遂行するために本申請で得られた助成金を使用する予定である。
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