研究課題/領域番号 |
19K16614
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
池上 一平 札幌医科大学, 医学部, 研究員 (80837021)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | Bob1 / Th17 / EAE / Multiple Sclerosis / IL-17A |
研究実績の概要 |
本研究はCD4+ヘルパーT細胞(CD4+T)細胞におけるBob1の制御機構を検討する中で、自己免疫疾患の病態に深く関与するTh17細胞とBob1の関係を明らかにするものである。まず、Th17細胞が病態形成に深く関与する実験的自己免疫性脳脊髄炎(Experimental autoimmune encephalomyelitis: EAE)をBob1欠損マウスに誘導した。その結果、野生型マウスと比べてBob1欠損マウスではEAE症状スコアの低下と、CD4+T細胞におけるIL-17A産生の減少を認めた。このことからBob1がCD4+T細胞のIL-17A産生を正に制御することを示した。Bob1がIL-17A産生を調節する制御機構を探るべくレポーターアッセイを行ったところ、Bob1はRORγtのIL-17A転写活性を増強させることを示した。また、免疫沈降法により、Bob1はRORγtと結合することを同定した。これらの結果から、転写因子Oct1との作用を主に報告されてきたBob1が、RORγtとも結合しIL-17Aの産生を調節するという新たな知見を生み出した。今年度はこれらの結果をまとめ、Biochemical and Biophysical Research Communicationsより本研究を報告した(Biochem. Biophys. Res. Commun. 2019)。そして、Bob1 flox/flox マウスとCD4-Creトランスジェニックマウスとを交配しCD4+T細胞特異的Bob1欠損マウスを世界で初めて樹立した。今後はこのマウスを用いてTh17細胞を含めたCD4+T細胞におけるBob1の役割を検討する。マウスモデルの検討と合わせて、ヒト検体にてBob1を検出するシステムを構築中であり、Bob1が診断マーカーになり得るかを検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度はBiochemical and Biophysical Research Communicationsに、Th17細胞におけるIL-17A産生にBob1が寄与することを報告できたため、当初の計画以上に研究が進展していると考える(表題名:Bob1 enhances RORγt-mediated IL-17A expression in Th17 cells through interaction with RORγt)。本論文では、Bob1がEAEの症状発症に関与し、CD4+T細胞におけるIL-17A産生に寄与すること、そしてその新規制御機構を報告した。制御機構の検討から明らかになったことは、Bob1はRORγtに作用しIL-17Aの転写活性を増強させることと、RORγtのligand-binding domainにBob1が結合することを見出し、この作用によりIL-17Aの産生が亢進することである。これまでBob1は転写因子Oct1/Oct2の共役因子としての作用が主に報告されていたが、本研究におけるin vivo、in vitroの解析から、Bob1がTh17細胞のマスター転写因子であるRORγtに結合し、IL-17Aの転写活性を調節するという新たな知見を報告することができた。また、理化学研究所と共同でCRISPR/Cas9によりBob1 flox/floxマウスを作成した。これとCD4-Creトランスジェニックマウスとを交配し、CD4+T細胞特異的Bob1欠損マウスを世界で初めて樹立した。このマウスにおける遺伝子改変が適切に行われていることを定量PCR法などにて確認できたため、タンパク質レベルでの遺伝子改変を現在検討している。
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今後の研究の推進方策 |
今後はヒト臨床検体における解析と、マウスモデルによる更なる解析を予定している。まずはヒト臨床検体でのBob1発現の検出系を構築する。当研究室はフローサイトメトリーによるヒト末梢血液のリンパ球解析に長けており、CD4+T細胞の詳細なサブセットを分析するシステムは既に構築されている。このシステムを用いて、患者検体と健常者検体の間でCD4+T細胞におけるBob1発現の差異を、CD4+T細胞サブセットと合わせて詳細に解析することを目指す。対象とする症例は、EAEと関連性をもち、これまでゲノムワイド関連解析(GWAS)によりBob1との関わりが報告されている多発性硬化症を想定している(J. Neuroimmunol., 2006)。このようにヒト臨床検体の解析を通じて、Bob1が診断マーカーになり得るかを検討する。マウスモデルはBob1 flox/flox マウスとCD4-Creトランスジェニックマウスを交配させたCD4+T特異的Bob1欠損マウスを樹立した。このマウスにより世界で初めてCD4+T細胞におけるBob1の機能解析が個体レベルで可能になったため、現在頭数を増やすとともに、FoxP3(GFP/DTR)マウスとも交配を行っている。作出される個体はFoxP3陽性の制御性CD4+T細胞を細胞固定せずに検出できるため、セルソーティングなどでCD4+T細胞サブセットをより正確かつ詳細に分画することができる。このマウスを用いて、CD4+T細胞におけるBob1の機能的意義をより詳細に解析していく。
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