研究課題/領域番号 |
19K16623
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研究機関 | 徳島文理大学 |
研究代表者 |
中島 健太郎 徳島文理大学, 神経科学研究所, 助教 (20449911)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 多発性硬化症 / 脱髄性疾患 / 髄鞘再生 / Cuprizone / オリゴデンドロサイト / CYP51 / LDM |
研究実績の概要 |
脳はコレステロールの豊富な臓器であり、そのほとんどが脳内で新たに合成されている。脳の中で最もコレスレロールに富んでいるのが、神経軸索を被覆し跳躍伝導を可能にしている髄鞘である。これまでに本研究では、コレステロール合成に関与する唯一のチトクロムP450であるLanosterol 14α-demethylase(LDM、CYP51)を、髄鞘を形成しているオリゴデンドロサイト特異的に過剰発現するトランスジェニックマウス(LDM-Tg)の作製に成功している。このLDM-Tgでは、野生型マウスに比べ、cuprizone投与による実験的脱髄の軽減とその後の髄鞘再生の促進が認められるが、その機序の詳細は、未だ明らかになっていない。これまでの解析では、野生型マウスにおいて、コレステロール代謝酵素の多くと、それらを発現制御している転写因子SREBP2の脱髄後の発現増大が認められ、LDM-Tgマウスにおいても発現の程度は低いものの同様の発現変動が認められた。一方、LDMの代謝物であるFF-MASを含む8,9-unsaturated sterolsが、オリゴデンドロサイト前駆細胞の成熟オリゴデンドロサイトへの形成促進作用を示し、髄鞘再生を促進することが報告されている(Nature 560(7718);372-376, 2018)。これらのことから、LDM-Tgマウスにおける脱髄の軽減と髄鞘再生の促進は、LDMの過剰発現により一時的に存在量が増加すると考えられるFF-MASによる作用が重要な機能的意味を持っている可能性が考えられる。そこで、2020年度は、LDM-Tgマウス脳におけるコレステロール代謝関連分子の発現量とオリゴデンドロサイト前駆細胞と成熟細胞の存在量の定量解析を目的として、次世代シークエンサーを用いた網羅的な遺伝子発現解析と組織病理学的解析を行い、その解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
LDM-Tgマウスの繁殖効率が低く、十分な実験動物数を確保できなかった上に、コロナ感染症の感染拡大により研究実施時間の大幅な削減に迫られたため、全体的な研究計画がやや遅れ気味である。実験的自己免疫性脳脊髄炎マウスの解析を延期し、cuprizone誘発脱髄マウスの解析を優先するとともに、LDM-TgマウスのオリゴデンドロサイトでのLDM発現増大により発現変化する遺伝子の網羅的遺伝子発現解析を進め、これまでに作製した組織病理学的解析用検体を用いて免疫組織学的解析を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
現在、研究計画がやや遅れ気味であり、一部研究計画の見直しが必要である。LDM-Tgマウスの繁殖効率の低下については、交配数を増やすことで対応中であり、解析検体数を確保する間に、これまでの解析検体を利用して、オリゴデンドロサイト前駆細胞と成熟オリゴデンドロサイトの組織病理学的解析による定量的な評価を進めていく。また、次世代シークエンサーによるLDM-Tgマウス脳における網羅的遺伝子発現解析を進めており、Laser capture microdissectionによる解析対象遺伝子が決定次第、髄鞘特異的な遺伝子発現解析を進められるよう、コレステロール代謝関連分子に加え、候補遺伝子と考えている炎症性サイトカインとオリゴデンドロサイト分化マーカーのReal-time PCRによる解析の予備検討を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
LDM-Tgマウスの繁殖効率が低く、予定していた解析数より少なくなったこと、および研究計画の遅れにより、それらの解析に使用予定であった試薬・消耗品類の予算を次年度繰越としたため。予算執行の時期が遅れてしまっているが、次年度中には次年度繰越分も含め、当初の研究計画通りの予算を執行する予定である。
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