Lanosterol 14α-demethylase (LDM、CYP51)は、コレステロール合成に関与する唯一のチトクロムP450であり、髄鞘の生後発達過程や脱髄後の髄鞘再生過程においてオリゴデンドロサイトで発現が増大する。これまでに我々は、オリゴデンドロサイト特異的にLDMを高発現するトランスジェニックマウス(LDM-Tgマウス)が、cuprizone(CPZ) 誘発性脱髄とその後の髄鞘再生過程において、顕著な脱髄の軽減と髄鞘再生の促進を示すことを見出している。本研究では、その機序解明を通じて、多発性硬化症に代表される脱髄性疾患の、髄鞘再生促進による新たな治療基盤の探索に取り組んだ。CPZ誘発性脱髄モデルマウスを用いた生化学的解析の結果、野生型マウスでは、脱髄期および髄鞘再生期において、コレステロール合成の主要制御分子であるSREBP2の発現が増大しており、特に活性型の存在比が増大していた。そして、その下流のコレステロース代謝関連分子も髄鞘再生期に発現の増大が見られた。LDM-Tgマウスでも同様の発現変動が観察されたが、その程度は脱髄の程度と相関しており軽微であった。また、組織病理学的手法により、脱髄期と髄鞘再生期におけるSREBP2の発現様式を詳細に解析した結果、脱髄部位へのアストロサイトの過剰な浸潤とそのアストロサイトでの顕著なSREBP2免疫活性の増大が認められた。これらの結果は、髄鞘再生にはコレステロール合成の亢進が必須であるが、それ自体が脱髄の軽減を誘発するものではないこと、および髄鞘形成に必要なコレステロールをアストロサイトが供給している可能性を示唆している。LDM代謝産物による脱髄の軽減と髄鞘再生の促進、およびアストロサイトでのコレステロール合成活性亢進による髄鞘再生の機序解明はこれからの課題であるが、髄鞘再生過程におけるアストロサイトでのコレステロール合成制御が、髄鞘再生促進のための新たな治療ターゲットになり得ると考えられる。
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