研究課題
クルーズトリパノソーマ (Trypanosoma cruzi, T. cruzi) は、中南米で流行しているシャーガス病の原因となる細胞内寄生原虫である。この原虫の細胞内分裂増殖機構や病態形成メカニズムは不明な点が多く、原虫は宿主防御反応に対する回避システムを利用することで、生き延びていると考えられる。宿主の応答の一つとして細胞内タンパク質分解機構のオートファジーが挙げられる。この機構は小胞体から隔離膜が伸長し、不要物を包み込んだオートファゴソームを形成後、リソソームと融合することでオートリソソームとなり、内容物を加水分解する。これまでに、T. cruzi 感染細胞において、宿主オートファジーの初期過程は活性化するが、オートファジーは完了せず、原虫は増殖・生存することを明らかにした。特にオートリソソーム形成が抑制されていることから、本研究ではオートリソソーム形成に関わるSNARE 複合体(syntaxin17: stx17, Vesicle-associated membraneprotein 8: VAMP8, Synaptosomal-associated protein of 29 kDa: SNAP29) に焦点をあて、T. cruzi 感染による宿主オートリソソーム形成抑制機構を明らかにする。T. cruzi 感染細胞において、stx17 タンパク質発現量が減少し、オートファゴソームへの局在も減少した。そこで、stx17 と相互作用する因子を探索するために原虫感染細胞ライセートを用いたpull down assay を行い、LC-MS/MS によるプロテオーム解析を行なったところ、いくつかの原虫側因子が同定された。現在、これら因子の解析のため、CRISPR/Cas9 法を用い、ノックアウト(KO) 原虫の樹立を進めている。
4: 遅れている
新型コロナウイルス感染症の影響により、研究活動に支障が生じたことから、研究は当初の計画より遅れている。KO原虫を作出し解析を進める予定であったが、樹立まで至らなかったため、遅れていると判断した。
同定された原虫側の候補因子に焦点を当て、申請内容に沿い実験を遂行する。作製したT. cruzi の候補因子の抗体を用いてpull down assay を行い、他に同定された候補因子についても解析を進めつつ、CRISPR/Cas9 法を用いたKO 原虫の樹立を進める。KO 原虫を樹立後は、原虫の増殖率、宿主細胞への感染率およびStx17の局在変化、オートリソソーム形成の有無を顕微鏡下で観察し、原虫側因子の機能解析を進める。
研究活動の遅れにより、同定した候補因子KO 原虫の樹立が完了せず、未使用額が生じた。5年度経費の主な用途は消耗品・試薬で、内訳として細胞培養に必要な培地、血清、ディスポーザブルピペット等のプラスチック製品、抗体、遺伝子改変細胞用作製試薬などがあげられる。
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)
Infect Dis Poverty.
巻: 11 ページ: 89
10.1186/s40249-022-01008-5.