2019年度は、大腸菌に感染するモデルファージであるT7を用いて非増殖性ファージ創出の概念実証実験を行った。初めに、ファージの頭部遺伝子または尾部遺伝子 (群) を発現するプラスミドを構築し、大腸菌に導入した。次に、頭部遺伝子または尾部遺伝子 (群) が欠失したファージゲノムを設計・構築し、当該遺伝子を発現する大腸菌に導入した。これにより、デザイナーファージゲノムとプラスミドが共存する場合のみ機能的なファージが産生されることになる。このファージは、頭部遺伝子または尾部遺伝子 (群) が欠失したゲノムをパッケージングしており、一回限りの感染と殺菌を可能にする殺菌性非増殖性ファージである。実際に上述のアプローチによって創出したファージは、欠失した頭部もしくは尾部遺伝子を発現する大腸菌の上ではプラークを形成したが、発現しない大腸菌の上ではプラークを形成しなかった。in vitroでの機能性評価を実施したところ、野生型のファージ(改変していないオリジナルのT7)と比較して殺菌効果は弱くなるものの、今後の実験系に必要十分な殺菌性を示した。また、調べた限りにおいて、非増殖性ファージが増殖能力を再獲得したことを示すデータは得られておらず、現時点では100%の封じ込めに成功していると言える。非増殖性ファージの創出技術については特許出願した(国内出願2018-244789、国際出願PCT/JP2019/47649)。
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