研究課題
肺炎球菌は市中感染においては主要な起炎菌の一つであり、肺炎、中耳炎などの比較的軽症疾患から、髄膜炎や菌血症のような重症疾患まで様々な病態を示す。特に乳幼児が肺炎球菌髄膜炎を罹患した場合には予後不良であるため、小児用に結合型肺炎球菌ワクチンが開発されている。本研究は同ワクチンを定期接種化したのちにどのようなゲノムの変化が肺炎球菌に生じるかを明らかにするための研究である。我々は全ゲノム解析を用いて、2012年から2017年にかけて収集したカルバペネム耐性あるいはマクロライド耐性あるいは莢膜型12Fを持つ肺炎球菌のゲノム解析を行った。本邦で検出されるカルバペネム耐性肺炎球菌はおもに莢膜型15A、19A、35Bであるが、このうち15A、19Aは多くがpbp1a-13を持っていた。これは2000年以降、各国で流行した多剤耐性19A-ST320が持つpbp1aと同様の型である。本邦ではこの19A-ST320の流行はなかったため、他にこのpbp1a-13の起源があり、これが肺炎球菌の異なるクローン間で循環している可能性がある。また本邦の肺炎球菌はマクロライド耐性率が高いのも一つの特徴であるため、我々はマクロライド耐性遺伝子を持つトランスポゾンの構造解析を行った。この結果、本邦のマクロライド耐性肺炎球菌はいくつかの種類のトランスポゾンを持っていた。すなわち、同一のトランスポゾンが水平伝播することでマクロライド耐性が増加しているわけでは内容である。さらに本邦では2015年以降、現行の結合型ワクチンに含まれていない12F型を持つ肺炎球菌が急増したため、同株の解析も行った。その結果、12Fの中にはST4846とST6945があり、ST4846の中にサブクローンであるPC-JP12Fを発見した。ベイズ解析により、PC-JP12Fが関東地方から各地に広がったことが12F急増の原因の一つと推測された。
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Emerging infectious diseases
巻: 26 ページ: 2660-2668
10.3201/eid2611.200087.