研究課題/領域番号 |
19K16638
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
平松 征洋 大阪大学, 微生物病研究所, 助教 (90739210)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 百日咳 / small RNA |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、百日咳菌の感染成立機構をnon-coding small RNA(sRNA)による菌の遺伝子発現制御の観点から解析することにある。申請者は、これまでにin vivoにおける病原因子の発現制御機構に着目し、複数の百日咳菌由来sRNAの発現量が宿主感染時に大幅に増加していることを見出している。本研究は、百日咳菌感染時のsRNA発現の調節機構と当該sRNAによって制御される因子を解析することで、新たな観点から百日咳菌の感染成立機構の理解を目指すものである。本年度は、下記項目を実施した。 1)百日咳菌臨床分離株におけるsRNAの発現:宿主感染時におけるsRNA発現量の大幅な増加は、百日咳菌の標準株18323だけでなく、ワクチン株Tohamaや臨床分離株においても確認された。一方、菌株間におけるsRNA発現増加量の差異やsRNA遺伝子の変異の有無は認められなかった。 2)sRNA欠損株の感染能:複数のsRNA欠損株を作製し、マウスへ経鼻感染させたところ、sRNA-X欠損株ではマウス気管への感染率が野生型と比較し、1/10程度に減少していた。また、プラスミドによりsRNA-Xの発現を相補した株では、野生型と同程度の感染能が確認された。 3)sRNA-X標的遺伝子の同定:In vitroにおいてsRNA-Xを過剰発現する株を作製し、タンパク質の発現・分泌パターンを野生型と比較した結果、sRNA-Xは百日咳菌の接着因子Aの発現量を転写後レベルで増加させることが明らかとなった。また、このsRNA-Xの作用は、接着因子A mRNAの5'非翻訳領域への結合によるものであることが示唆された。 以上の結果より、百日咳菌の宿主感染時に発現量が増加するsRNA-Xは、接着因子Aの発現量を増加させることで、本菌の感染成立に寄与することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、百日咳菌感染時のsRNA発現の調節機構と当該sRNAによって制御される因子を解析することで、新たな観点から百日咳菌の感染成立機構の理解を目指すことにある。本年度は、宿主感染時に発現量が増加するsRNA-Xを欠損する株では、百日咳菌の感染能が低下することを明らかにした。さらに、sRNA-Xは接着因子A mRNAの5'非翻訳領域に結合し、Aの発現量を転写後レベルで増加させることを見出した。以上の成果より、百日咳菌の感染成立に寄与するsRNA-Xの作用機構を明らかにすることができたため、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、宿主感染時におけるsRNA-Xの発現増加機構を解析する。具体的には、DNAプルダウンアッセイなどの手法を用いて、sRNA-X遺伝子のプロモーター領域に結合する転写因子の同定を試みる。同定したタンパク質が転写因子であることの検証は、sRNA-Xプロモーター領域とルシフェラーゼ遺伝子を組み合わせたレポータープラスミドを用いて行う。また、様々なストレス負荷(浸透圧、塩濃度、pHなどの変化)や培養条件の変更(培養温度、培地組成)がsRNA-Xの発現量に与える影響についても検討を加え、どのような環境因子やシグナルがこの転写因子の活性化に関与するかを明らかにする。 一方、申請者はsRNA-X以外にも、複数のsRNAが百日咳菌の宿主感染時に増加することを見出している。これらのsRNAを欠損する株は、百日咳菌のマウスへの感染能には影響を与えなかったが、百日咳菌の病原性に関与する可能性がある。そこで、申請者らが以前に確立したマウス咳発作解析法を用いて、百日咳菌によるマウス咳発作の誘発に影響を与えるsRNAが存在するか確認する。具体的には、sRNA欠損株および野生株をマウスに経鼻感染させ、マウスの発咳回数を任意の期間中に1日あたり5分間計数することで、sRNAが咳誘発効果に与える影響を検討する。マウスの発咳に関与するsRNAが同定できた場合、そのsRNAを過剰発現する株を作製し、当該sRNAによって制御される因子の解析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)当初の計画では、sRNAの標的遺伝子の同定のために、iTRAQ法などを用いてタンパク質発現パターンの網羅的な比較解析を行う予定であった。しかし、SDS-PAGEおよびCBB染色によりsRNA-Xの標的遺伝子が同定できたため、物品費と解析技術料が抑えられ、次年度使用額が生じた。
(使用計画)本年度の実施を予定していた「百日咳菌によるマウス咳発作に影響を与えるsRNAの同定」を次年度に行うため、その際に必要となる実験動物や消耗品の購入費用に充てる。また、これらのsRNAについてもiTRAQ法などを用いて標的遺伝子を同定する予定であり、その際の物品費や解析技術料に使用する。
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