本研究の目的は、百日咳菌の感染成立機構をnon-coding small RNA(sRNA)による菌の遺伝子発現制御の観点から解析することにある。本研究は、百日咳菌感染時のsRNA発現の調節機構と当該sRNAによって制御される因子を解析することで、新たな観点から百日咳菌の感染成立機構の理解を目指すものである。昨年度、申請者は、百日咳菌の宿主感染時に高発現するBpr4と名付けたsRNAが接着因子Aの発現量を転写後レベルで増加させ、本菌の感染成立に寄与していることを明らかにした。本年度は、Bpr4の発現量が宿主感染時に増加する機構を明らかにするために、下記項目を実施した。 1)Bpr4の発現量増加は百日咳菌の感染1時間後には見られ、感染1、4、10日後も持続していた。 2)Bpr4の発現量は、百日咳菌を肺上皮由来細胞やマクロファージに感染させた際も顕著に増加していた。 3)Bpr4の発現増加は、PFAやメタノールで固定化した細胞に百日咳菌を感染させた際も見られたが、各種コーティングを施した細胞培養プレートへの接着では確認できなかった。 4)bpr4プロモーターの下流にgfp遺伝子を挿入したレポーター株を用いた解析で、bpr4プロモーターの転写活性が百日咳菌の細胞接着、宿主感染により増加することが確認できた。 以上の結果より、百日咳菌は宿主感染時、細胞表面上の何らかの因子を認識し、プロモーター依存的にBpr4の発現量を増加させ、本菌の宿主への感染を促していることが明らかとなった。
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