研究課題/領域番号 |
19K16641
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研究機関 | 富山県立大学 |
研究代表者 |
大坪 亮太 富山県立大学, 工学部, 特定助教 (90794222)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 細菌感染症 / 免疫システム / CD8+T細胞 / 赤痢菌 |
研究実績の概要 |
本申請の研究は、細菌感染マウスモデルを使って、感染の初期段階で誘導されてくる新規細胞群自然免疫細胞様CD8+T細胞の生理的役割を明にすることを目的にしている。この細胞群の活性化機構や機能が明らかとなれば、抗生物質に頼らず、宿主自らの免疫システムを最大限に活用する除菌治療に繋がることが期待できる。 今年度は、赤痢菌感染マウスモデルを用いて、感染24時間で感染局所に集積してくる自然免疫細胞様CD8+T細胞の細胞表面分子の発現パターンを解析し、この細胞群が他のCD8+T細胞サブセットとは異なる発現パターンに注目し特徴付けを行った。次に、感染継時ごとに、この細胞群の集積数やその他のCD8+T細胞サブセットと共に分化過程を追った。さらに、この細胞群を単離し、細胞遊走性や細胞障害性といった特性評価を行った。これらの結果より、この細胞群は感染1日まで局所に集積し、4日までにはほとんど存在しなくなる短命な細胞群であることがわかった。また、感染後期に集積してくるCD8+T細胞より遊走性は高いが、障害性は低かった。この細胞群が感染初期において、局所に集積し、機能を果たさないと、感染後期に、赤痢菌感染に対して特異的に機能する適応免疫がうまく誘導されず、最終的に赤痢菌感染症が長期化、重篤化することが判明した。 以上の結果から、細菌感染症において、この自然免疫細胞様CD8+ T細胞は、自然免疫応答から獲得免疫応答へと橋渡しをする重要な細胞群の一つであることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究実施計画に沿って、赤痢菌野生株および赤痢菌リガーゼエフェクターIpaH4.5欠損株をマウスに経鼻感染させ、感染継時ごとの感染局所である肺や、その他膵臓やリンパ節を切除し、分散させ、細胞表面マーカーを解析することにより新規自然免疫細胞様CD8+T細胞群を特徴づけることに成功した。さらに、この細胞群を単離し、感染後期における他のCD8+T細胞郡と比較することで赤痢菌感染細胞に対する細胞障害性やケモタキシスなどの細胞遊走性について特性評価を行うことができた。その結果、赤痢菌感染時における自然免疫細胞様CD8+T細胞は他のCD8+T細胞サブセットと比べて、遊走性が高く、細胞障害性は低く、感染1日までに細胞数はピークとなり、感染4日までにはいなくなる短命な細胞群であった。この細胞群は、感染初期である24時間以内にある程度、局所の赤痢菌定着菌数を減らすために必須であることがわかった。この定着菌数を減らすという現象が、感染後期に惹起される獲得免疫の発達にすごく重要な意義があることも明にすることができた。また、この細胞群に高発現している細胞表面マーカーについて抗体によりブロックした後、赤痢菌感染実験を行ったところ、感染局所である肺に多くの菌が定着し、炎症が亢進し、病状が激症化することがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
T細胞欠損マウスにおいてこの自然免疫細胞様CD8+T細胞を移入し感染実験を行う。さらに、この自然免疫細胞様CD8+T細胞が赤痢菌感染だけでなく、他の細菌感染症に進行にも関わること調べるために、ピロリ菌感染マウスモデルを構築する。このモデルについても、同様に自然免疫細胞様CD8+T細胞において高発現している表面マーカーをブロックした後に、ピロリ菌感染させ、感染局所である胃やその他の臓器への定着菌数や炎症を評価することで、この自然免疫細胞様CD8+T細胞の細菌感染症における重要性を示したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年2月に、申請者が大阪大学微生物病研究所から富山県立大学工学部医薬品工学科へ異動した。そのため、当初、20年度末に計画していた細胞培養による実験を行うことができなくなったため、当該助成金が生じた。 2021年度に、改めて、所属先の規約や法令を遵守し、細胞培養実験を計画し、この実験に対して、翌年度分として請求した助成金と合わせて使用したい。
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