本申請の研究は、細菌感染マウスモデルを使って、感染の初期段階で誘導されてくる新規CD8+T細胞群の生理的役割を明にすることを目的にしている。申請期間2年目までで、この細胞群は、獲得免疫系細胞でありながら、自然免疫系細胞と同様のタイミングで感染制御に関わる知見を得た。さらに、この細胞群の特性の理解を深めるために、研究期間全体を通して、マウスによる赤痢菌感染モデルやピロリ菌感染モデルにおいて、新規自然免疫細胞様CD8+T細胞について研究をおこなった。赤痢菌感染モデルにおいて、この新規細胞群は、感染1日目から自然免疫細胞とともに感染局所にて集積し、感染4日目、7日目と減少し、感染7日目にはほとんど消失する短命な細胞群であった。さらに、これらの細胞の特徴として、感染後期に惹起されるCD8+T細胞と比較して、感染細胞特異的な細胞傷害性が高いことが判明した。この細胞群の生理的役割を理解するために、細胞膜表面マーカー抗体によりブロックし、これら細胞群を機能的に欠損させ、感染症の進行や病状を評価した。その結果、感染症の増悪化と長期化が認められた。特に最終年度において、この細胞群を集め、マウスに静脈注射により投与し、赤痢菌感染をおこなったところ、症状が緩和し回復傾向を示した。新規細胞群は、細菌感染症を制御する重要な細胞群であることが明らかとなった。現在、薬剤耐性菌による感染症が社会的に大きな問題の一つである。この細胞群の活性化を制御することにより、抗生剤に頼ることなく、ヒト自身に備わった免疫システムをうまく活用することで、早期回復に導く可能性が示された。
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