NTM症は難治性の呼吸器疾患の総称であり,NTMはおよそ200種が知られ,亜種の違いにより異なる薬剤耐性を示す.そのため治療方針決定のためには亜種レベルの正確な同定が要求され,これまでの手法では正確な同定を行うことは困難であった.それに加えて,当初ゲノム配列が既知であったNTMは限られており,ゲノム情報に基づいた種同定が行えない状況にあった.本研究課題ではまずNTM同定のためのMLSTデータベースおよびそれを用いた同定ソフトウェアであるmlstverseを開発した.それに加え,ナノポアシーケンサーであるMinIONから出力される信号データに対して,リアルタイムに解析を行う解析パイプラインを構築した.これによりNTMが菌株として保存されていれば,同日中に菌種同定を行うとともに,クラリスロマイシンやアミカシンをはじめとしたNTM治療におけるキードラッグに対する薬剤耐性の予測結果を知ることができるようになった. また喀痰等の臨床検体に含まれるメタゲノムDNAからNTMを直接同定できるよう核酸抽出方法および同定手法の最適化を行った.ガラスビーズを用いた細胞破砕による抽出手法と全ゲノム増幅試薬であるREPLI-gを組み合わせた手法を確立し,この手法を従来診断に用いられていたMGIT培養法の培養産物の残余に対して適用することで,数日でのNTMの網羅的同定を実現することができた.
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