研究課題/領域番号 |
19K16645
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
平山 達朗 長崎大学, 病院(医学系), 助教 (40836269)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | Candida albicans / ERG3 / エルゴステロール / colonization / 腸管 |
研究実績の概要 |
トランスロケーションマウスモデルを用いて、Candida6菌種の病原性を評価した研究結果をScientific report に投稿し2020年に発行された(Hirayama T et al. Sci Rep. 2020 2;10(1):3814.doi:10.1038/s41598-020-60792-y)。モデルの確立後は、腸管における宿主免 疫応答のメカニズムや、菌側の定着及び組織侵襲に必要とする因子の解明を進めた。 Candida albicanにおいて、ERG3によってコードされるsterol C5,6-desaturaseの欠損は細胞膜の主成分であるエルゴステロールの合成経路に変化をきたしアゾール系抗真菌薬に耐性を誘導すると考えられている。erg3欠損株はカンジダ血症マウスモデルにおいて菌糸の発育が抑制され、病原性が低下すると報告されている。一方、腸管は播種性カンジダ症の主な侵入門戸と考えられているが、腸管に対する病原因子を検討した報告はほとんどない。腸管からのトランスロケーションマウスモデルを用いて、erg3欠損株の腸管における定着および病原性を検討した。 erg3欠損株は野生株と比較して、便中および臓器内の生菌数は低下し、生存曲線は延長した。病理組織では腸管組織で菌糸の発育を認めたが、周囲組織への侵襲は弱かった。血清および大腸組織のケモカイン産生も低下し、C. albicansはステロール成分の変化により腸管における病原性が低下することが示唆された。本研究結果はPathogensに投稿し受理された(Pathogens 2021, 10(1), 23; https://doi.org/10.3390/pathogens10010023)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
病原性評価を行うにあたり適したトランスロケーションモデルを作成し、実際に病原因子を特定でき、成果を国際雑誌に報告できた。しかし、COVID-19流行による物品納品の遅れや診療にエフォートを割く必要性があったため、予定していた全ての病原性因子の評価には至らなかった。研究期間を延長して昨年度実施できなかった計画を進めていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画では予定していなかったが、薬剤耐性を獲得しやすいC. glabrataやCandida aurisを腸管へ定着させ、抗真菌薬であるミカファンギンやキャスポ ファンギンをマウスに連日投与すると、一時便中の生菌数は減少するものの、その後再増加することが分かった。再増加した際の菌の薬剤感受性を調べるとこれ らの薬剤に耐性になっており、腸管が薬剤耐性菌のリザーバーになっていることが予想される。これらの菌にはキャンディン耐性機序として知られているFKSの 変異が見られず、新たな薬剤耐性機序が関与していると考えられる。この現象はC. albicansでは見られなかった。 現在、耐性となった菌株のRNA sequenceおよびWhole genome sequenceを実施し、耐性機序についての解析を進めている。薬剤耐性に関わる遺伝子が推定されれ ば、遺伝子操作を行い新規薬剤耐性機序の解明に繋がると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の影響で学会に行けなくなったため旅費が少なくなったことや、海外で産生される物品の納期が滞ったため、使用額と差額が生じた。2021年度は行けなくなった学会の費用や、薬剤感受性試験のキット、遺伝子解析の費用にあてる予定である。
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