研究課題/領域番号 |
19K16656
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研究機関 | 武蔵野大学 |
研究代表者 |
石井 雅樹 武蔵野大学, 薬学部, 助教 (10786966)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 皮膚糸状菌 / 低分子量Gタンパク質 / 細胞内シグナル伝達 / ケミカルバイオロジー / 医真菌 / 阻害剤 / 菌糸成長 / 皮膚疾患 |
研究実績の概要 |
白癬(水虫)は皮膚糸状菌によって引き起こされる浅在性真菌感染症であり、10人に1人が感染しているとも言われるほど一般的な疾患である。発赤や爪の変形、脱毛などの外見的な変化だけでなく痒み並びに合併症の誘発などを引き起こすため、QOL(生活の質)を著しく低下させる。皮膚糸状菌の増殖形態である菌糸成長は皮膚糸状菌の病原性と深い関係にあるが、その分子機構については未だ不明な点が多い。本研究の目的は皮膚糸状菌の低分子量Gタンパク質の生理的意義を明らかにするとともに、創薬における新たな分子標的を同定することにある。申請者は、本研究の予備検討において低分子量Gタンパク質Racの阻害剤が皮膚糸状菌の菌糸成長を阻害することを見出した。本研究では、さらにこれまで皮膚糸状菌の菌糸成長との関与が知られていなかったRac様タンパク質およびそのGEFに着目し、皮膚糸状菌の菌糸成長への寄与を明らかにするとともに、医薬品開発における新規分子標的の同定を目指す。本年度は大腸菌で作出したRac様タンパク質が試験管内で、蛍光標識したGTPと結合することを明らかにし、その実験系を用いてRac様タンパク質の活性化因子としてグアニンヌクレオチド交換因子(GEF)を同定した。同定したGEFはヒト相同因子との類似性が27%と低く有望な創薬標的となることが期待された。同定したGEFの条件発現抑制株を作出し、菌糸成長に対する影響を検討した結果、GEFの発現を抑制すると菌糸成長が抑制されることを見出した。菌糸成長を抑制したRac阻害剤は、試験管内でGEFによるRac活性化を阻害した。以上のことはRac様タンパク質及びそのGEFが皮膚糸状菌における菌糸成長を制御する新規経路を構成する分子であり、新奇創薬標的候補となることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた研究計画で、A.皮膚糸状菌のRac様タンパク質の生理的機能の解明及びB.皮膚糸状菌のRac様タンパク質の相互作用因子の同定と薬剤スクリーニングを見据えたアッセイ系の確立の二点を進める予定でいた。令和元年度には、それらの検討のうち、A.について予定されていたRac様タンパク質の大腸菌での発現及び生化学的な性状解析を遂行し、遺伝学的解析についても遺伝子変異株の作出に成功している。また、Bについては、Rac様タンパク質の相互作用因子の探索を行い、Rac様タンパク質の活性化因子としてGEFを同定している。さらにGEFの変異株の作出に成功し、GEFが皮膚糸状菌の菌糸成長に必須の因子であることを明らかにしている。これらのことから、本課題を概ね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度の推進方策として、同定したGEFによるRac様タンパク質の変異株を用いた遺伝学的な性状解析を分子細胞生物学的な解析手法を交えて進展させる。さらに、Rac様タンパク質と遺伝学的生化学的に相互作用する分子の探索を進め、Rac様タンパク質及びそのGEFを中心とした菌糸成長制御機構の全貌を明らかにする。創薬基盤の構築に向けては、GEFによるRac様タンパク質活性化を検出するハイスループットスクリーニング系の確立を目指し、使用する容量、タンパク質の用量、及び反応液の組成などについて条件検討を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和元年度の研究計画の中で、ハイスループットスクリーニングの条件検討の一部を行う予定であったが、遺伝学・生化学的な解析からいくつかの新たな知見が得られ、そちらの解析に注力した。よって、ハイスループット試験の条件検討に使用する予定であった費用を次年度使用額とした。また、令和元年度に得られた知見から、ハイスループット解析の手法自体を改善する必要性も見えてきたため、新規ハイスループット解析確立用資金として次年度に使用することとした。
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