研究課題/領域番号 |
19K16656
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研究機関 | 武蔵野大学 |
研究代表者 |
石井 雅樹 武蔵野大学, 薬学部, 助教 (10786966)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 皮膚糸状菌 / Rhoファミリー低分子量Gタンパク質 / 病原性真菌 / 菌糸成長 / 細胞内シグナル伝達系 / 阻害剤スクリーニング / 生化学 / 皮膚疾患 |
研究実績の概要 |
白癬(水虫)は皮膚糸状菌によって引き起こされる浅在性真菌感染症であり、10人に1人が感染しているとも言われるほど一般的な疾患である。皮膚糸状菌の増殖形態である菌糸成長は皮膚糸状菌の病原性と深い関係にあるが、その分子機構については未だ不明な点が多い。本研究では、これまで皮膚糸状菌の菌糸成長との関与が知られていなかったRac様タンパク質およびそのGEFに着目し、皮膚糸状菌の菌糸成長への寄与を明らかにするとともに、医薬品開発における新規分子標的の同定を目指している。昨年度までにRhoファミリー低分子量Gタンパク質に属するRac様のタンパク質(TrRac)を活性化する分子としてGEFをin vitroのアッセイ系で同定し、その発現を抑制した変異型皮膚糸状菌株の菌糸成長が顕著に抑制されることを見出している。本年度はTrRac変異株を複数作出し、菌糸成長への寄与を検討した。その結果、TrRac欠損によっては菌糸成長の顕著な抑制は見られず、ゲノム 上に存在する類似した一次構造を持つパラログ(TrCDC42)の発現を同時に抑制することで、GEF遺伝子発現抑制株と類似した菌糸成長の顕著な抑制が起こることを見出した。TrCDC42の発現を単独で抑制した場合には菌糸成長の顕著な抑制は見られず、TrRac及びTrCDC42の遺伝学的な相互作用が見られた。in vitroのアッセイ系で、TrCDC42はTrRacと同様にGEFによって活性化されたことから、TrRac及びTrCDC42がGEF下流で細胞内シグナル伝達系を相補的に制御していることが示唆された。以上のことはTrRac及びTrCDC42とそのGEFが皮膚糸状菌の菌糸成長を制御する細胞内シグナル伝達系を構成する分子であり、GEFによるTrRac及びTrCDC42の活性化が新奇創薬標的候補となることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた研究計画で、A.皮膚糸状菌のRac様タンパク質の生理的機能の解明及びB.皮膚糸状菌のRac様タンパク質の相互作用因子の同定と薬剤スクリーニングを見据えたアッセイ系の確立の二点を進める予定でいた。本年度は、それらの検討のうち、A.について予定されていたRac様タンパク質の変異株を複数作出し、その性状解析を行った。昨年度の結果を合わせ、当初の計画していた解析を概ね遂行した。また、Bについては、昨年度までにRac様タンパク質の相互作用因子の探索と変異株の作出に成功しており、令和2年度はこれに加え、薬剤スクリーニング系の確立に注力してきた。ただし、TrRacの活性をin vitroの系で評価する系を構築していたが、今年度得られた結果から相補的に機能する分子(TrCDC42)についても同時に評価できる系として再構築する必要があり、TrCDC42はタンパク質の大量発現を進行中である。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度の推進方策として、GEF、TrRac及びTrCDC42変異株を用いて分子細胞生物学的な解析手法を交えて菌糸成長制御機構の分子機構の解明を進展させる。さらに、創薬基盤の構築に向けて、GEFによるTrRac及びTrCDC42の活性化を検出するハイスループットスクリーニング系の確立を目指し、特に、TrCDC42の大量発現系の構築や、ハイスループット系で使用する液体容量、タンパク質の用量、及び反応液の組成などについて条件検討を行っていく。また、本研究課題の公表を目的として、学会発表及び論文化を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度の研究計画の中で、ハイスループットスクリーニングの条件検討を行う予定であったが、Rac様タンパク質の欠損株の詳細な解析から新たな知見が得られ、補助事業の目的をより精緻に達成するため、ハイスループットスクリーニング試験の手法変更及び改善を迫られた。ハイスループット試験の手法変更に伴い、新規タンパク質(TrCDC42)の大量発現・精製の必要があり、その検討に時間を要している。また、コロナウイルス感染症の影響で研究施設への立ち入り制限及び試薬の購入の到着遅延等の問題が発生しているため検討する時間を十分に取ることができなかった。そのため、ハイスループット試験の手法改変および条件検討に要する費用を次年度使用額とした。
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