白癬(水虫)は皮膚糸状菌によって引き起こされる浅在性真菌感染症であり、10人に1人が感染しているとも言われるほど一般的な疾患である。皮膚糸状菌の増殖形態である菌糸成長は皮膚糸状菌の病原性と深い関係にあるが、その分子機構については未だ不明な点が多い。本研究では、これまで皮膚糸状菌の菌糸成長との関与が知られていなかったRac様タンパク質およびそのGEFに着目し、皮膚糸状菌の菌糸成長への寄与を明らかにするとともに、医薬品開発における新規分子標的の同定を目指した。 菌糸成長に関わるRac様タンパク質としてTrRac及びそのホモログTrCDC42を見出し、それぞれの変異株を作出し、これらの因子が相補的に菌糸成長へ寄与することを見出した。また、in vitroのアッセイ系で、TrCDC42及びTrRacがGEFによって活性化されることを示した。さらに阻害剤スクリーニング系の確立を目指し、TrRac及びTrCDC42タンパク質の安定的な発現系の構築を行い、可溶化が困難だったTrCDC42について、可溶化タグProS2の融合タンパク質として発現させることで、活性を保持し、安定的に発現することが可能であることを見出した。本細胞内シグナル伝達系のエフェクターを探索するため、Rac及びCCDC42下流分子の探索を行なった。下流分子の候補としてp21-activated kinaseの欠損株を作出し、菌糸成長が抑制されることを見出した。以上のことから、TrRac及びTrCDC42を中心とした皮膚糸状菌の菌糸成長を制御する細胞内シグナル伝達系を明らかにし、GEFによるTrRac及びTrCDC42の活性化とそれに続くキナーゼの活性化が新奇抗真菌薬の創薬標的となることを提案する。
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