クラミジアを始めとする細胞内寄生性細菌は、マクロファージの殺菌作用に抵抗性を示すため、その感染症は重篤かつ難治性の場合が多い。特に肺炎クラミジア感染症は、性感染症の他に動脈硬化やアルツハイマーとの関連も報告されており、成人病患者の増加と高齢化が進む我が国において懸念される感染症の1つである。ミトコンドリアは、好気的ATP産生の他、炎症応答、Ca2+シグナル伝達やアポトーシスなど様々な細胞機能において中心的な役割を果たす。近年、ミトコンドリアの形態が細胞機能を制御することが明らかになっており、免疫細胞においても、その活性が形態に依存する事が分かってきている。本申請の目的は、ミトコンドリアの形態を利用した肺炎クラミジアの感染戦略を解明する事である。 これまでの研究により、マウス初代培養マクロファージおよびマウスマクロファージ様細胞株、いずれにおいても、肺炎クラミジア感染に伴いミトコンドリアが分裂する事が確認されている。さらに、オートファジーマーカータンパク質である LC3の顕著な点在化が確認され、同時に、ミトコンドリア構成タンパク質が感染に伴い減少することから、マイトファジー亢進の可能性が示唆された。 次に、感染に伴うミトコンドリア形態変化の意義を解析するため、ミトコンドリア分裂/融合を制御するGTPaseタンパク質Drp1/Opa1を、それぞれsiRNAにより発現抑制し、菌体の増殖能を検証した。その結果、Drp1を発現抑制し宿主ミトコンドリアを伸長させると菌体の増殖が阻害され、対して、Opa1を発現抑制しミトコンドリを分裂させると菌体の増殖が亢進することが分かった。 上記を含む一連の研究結果から、マクロファージに感染した肺炎クラミジアは、宿主ミトコンドリアを分裂させ、マイトファジーを亢進させる事で、菌体の増殖に適した環境を作っている可能性が示唆された。
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