研究課題/領域番号 |
19K16682
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
下川 周子 国立感染症研究所, 寄生動物部, 主任研究官 (60708569)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 免疫抑制 / 寄生虫 / 腸内細菌 |
研究実績の概要 |
I型糖尿病(T1D)は、インスリン産生細胞である膵β細胞を標的とした自己免疫疾患である。マウスモデルとしては、自然発症型のNODマウスの他、ストレプトゾトシン(STZ)という薬剤誘導性のモデルが知られる。後者は、マウスに低用量のSTZ(50mg/kg)を一日1回、連日5日間腹腔内投与すると、STZの作用により膵β細胞が破壊され、1型糖尿病のようなインスリン不足による高血糖を引き起こす。 申請者はこれまでに、ネズミの腸管寄生線虫Heligmosomoides polygyrus (H. polygyrus) を感染させたマウスではSTZを投与してもβ細胞の破壊、インスリンレベルの低下、血糖上昇が見られず、T1Dが抑制されることを見出した。その抑制メカニズムを探索するためにH. polygyrus感染マウスの免疫細胞を網羅的に解析すると、抑制性の機能をもつCD8陽性T細胞(CD8Treg)が感染にしたがって増加していた。この細胞を、抗体を投与することであらかじめ除去しておくとH. polygyrusによるT1Dの抑制効果が見られなくなることから、H. polygyrusはCD8Tregを誘導することでT1Dを抑制していることを明らかにした。 そこで本年度はこのCD8Tregの誘導メカニズムを探るために、H. polygyrusが感染した際の、腸内環境を明らかにすることを目的とし、まずは腸内細菌叢を次世代シーケンサーを用いて解析した。また、抗生物質を用いた実験により、CD8Tregの誘導に腸内細菌が重要かどうかを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
非感染マウス、H. polygyrus感染マウスの糞便からDNAを抽出し、次世代シーケンサーで各マウスの腸内細菌叢を網羅的に解析した。すると、H. polygyrus感染マウスでは、Firmicutes 門に含まれる、Ruminococcus属が増加していることが明らかになった。Ruminococcus属の増加とCD8Tregの増加に関係があるかどうかを確認するために、H. polygyrus感染後、抗生物質を投与したマウスにT1Dの発症誘導を行うと、H. polygyrusが感染しているにも関わらずCD8Tregが増加せず、さらにT1Dの発症抑制が認められなかったことから、T1Dの発症抑制に必要なCD8Tregの誘導にはH. polygyrusの感染によって増加した腸内細菌が関与していることも明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
これまでにH. polygyrus感染によるCD8Tregの誘導には腸内細菌が関与していることを明らかにした。今後は、その腸内細菌をOTUレベルで同定することを目的として研究を行う。 具体的には、CD8Tregの増加と、腸内細菌叢の変化の相関解析を行うことで、CD8Tregの増加に関連した腸内細菌(候補菌)を見つけ出し、その候補菌をH. polygyrus感染マウスの糞便から単離培養する。さらにその候補菌をマウスに経口投与することでCD8Tregの増減をフローサイトメトリーで解析し、CD8Tregを増加させる候補菌を同定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の検査業務を行うにあたり、本研究に遅れが出た。 さらに、いくつかの学会が中止になり、使用することが出来なかった。
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