研究課題/領域番号 |
19K16701
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研究機関 | 関西医科大学 |
研究代表者 |
住吉 麻実 関西医科大学, 医学部, 助教 (50779402)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | T細胞 / 自己免疫疾患 / 炎症性腸疾患 / 多発性硬化症 / 免疫応答 / 小胞輸送 / ADP ribosylation factor |
研究実績の概要 |
研究代表者はT細胞特異的Arf1/Arf6二重欠損マウス(以下、Arf-TKOマウス)を用いてT 細胞におけるArf の生理的役割解明に取り組み、クローン病の病態モデルとして知られるナイーブCD4+ T細胞移入大腸炎誘導マウスモデルにおいて、Arf欠損T細胞を移入したマウスにおける大腸炎がコントロールと比較して著しく抑制されることを見出した。クローン病に代表される自己免疫性大腸炎は、二種類存在するTh17細胞の内、pathogenic Th17細胞が原因となって引き起こされることが知られているため、本年度はArf経路を介したpathogenic Th17細胞の分化・維持機構について解析を行った。その結果、予想に反し、pathogenic-Th17細胞への分化能・分化後の生存維持のいずれにおいてもコントロール細胞とArf欠損細胞で優位な差は認められなかった。一方で、Arf欠損ナイーブCD4+ T細胞は、活性化に伴い速やかにアポトーシスが誘導されることが分かった。大腸炎と同じくpathogenic-Th17細胞の関与が知られる自己免疫疾患・多発性硬化症のEAEマウスモデルにおいても、Arf欠損に伴い病態が顕著に抑制されていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究計画に沿い、pathogenic-Th17細胞の分化と生存におけるArf欠損細胞の効果を調べたが、細胞の分化・維持のいずれにおいてもArf-TKOとコントロールで有意な差はみとめられなかった。大腸炎のような自己免疫疾患が誘導される際、ナイーブCD4+ T細胞のT細胞受容体(TCR)によって抗原提示細胞に提示された抗原が認識されることでT細胞の活性化と増殖が誘導され、その後、pathogenic-Th17細胞へと分化が誘導されることが知られている。そこで、当初の研究計画を変更し、pthogenic-Th17細胞へと分化が誘導される以前のステップである、『ナイーブCD4+ T細胞の活性化と増殖』に着目した解析を行った。その結果、ホメオスタシス増殖実験において、腸内細菌に反応して増殖を行う細胞集団が、Arfの欠損によってほとんど消失することが判明した。加えて、コントロールマウスならびにArf欠損マウス由来のナイーブCD4+ T細胞にTCR刺激を与え、4日後に解析したところ、活性化マーカーの発現や増殖能は正常であったものの、コントロールと比較してArf欠損T細胞の数は激減していた。この細胞数の低下は、アポトーシス阻害剤の共存によってコントロール細胞と同程度まで回復したことから、Arf欠損ナイーブCD4+ T細胞ではTCR刺激によってアポトーシスが亢進することが分かった。自己免疫疾患発症抑制の背景には、このアポトーシス亢進が存在するものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた成果に基づき、Arf経路を標的とした自己免疫疾患の治療の可能性について焦点を当て、研究を進めて行く。現在、世界には約250万人の多発性硬化症の患者に加え、クローン病をはじめとした炎症性腸疾患に苦しむ患者が約680万人存在する。これらの疾患に対する治療には主として免疫抑制剤が使用されているが、免疫抑制剤は有害な細菌やウイルスに対する抗体応答も阻害してしまう。興味深いことに、Arf-TKOマウスではEAEや大腸炎が抑制される一方、外来抗原であるOVAに対する抗体産生能はコントロールマウスと同等であった。この結果は、T細胞依存性の抗体産生がArf-TKOマウスにおいて正常であることを意味する。そこで、感染免疫を中心に、Arf-TKOマウスにおける免疫応答が正常であるか否かを検証する。Arf-TKOマウスにおいて正常な感染抵抗性が認められた場合は、Arf経路を標的とすることで、自己免疫疾患に対して、より副作用の少ない新しい治療が可能になるものと期待される。
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