研究実績の概要 |
進行前立腺癌において、個別化診療のためのバイオマーカー同定及び化学内分泌療法抵抗性の分子生物学的機序解明は重要な課題である。我々は先行研究でアロマターゼをコードするCYP19の生殖細胞系列遺伝子多型が前立腺癌発症・予後に関連し、その一部がCYP19活性に影響を与える機能的遺伝子多型であることを報告している(Kanda, Int J Cancer, 2015)。またTissue microarrayを用いたpilot研究で前立腺間質エストロゲン受容体(ER)発現が前立腺癌化学内分泌療法抵抗性に関連する可能性も見出した。上記より生殖細胞系列CYP19遺伝子多型に機能的SNPsが存在し、血中または前立腺組織内での性ホルモンバランスを変化させ、前立腺間質ERと下流シグナル制御により前立腺癌化学内分泌抵抗性を生じると仮説を立てた。一昨年までの検討でERα発現は高い傾向にあったが、有意差はなく(p =0.074)、一方間質PR発現は化学内分泌療法後前立腺全摘を行ったハイリスク前立腺癌症例の生化学的再発に関連する傾向があり(HR = 0.45, 95% CI 0.20-1.02, p = 0.054)、結果を論文で報告した(Matsuda Y, Narita S, BMC Cancer. 2020 Apr 15;20(1):302.) 。同時に前立腺間質細胞PrSCと、4種の前立腺癌細胞株(LNCaP、PC-3、DU145、22RV-1)の共培養を行うと特定のサイトカインの上昇と、前立腺癌増悪の進展が示唆されたため、本年度はこの点に関して、更に研究を進めた。その結果、アロマターゼ経路との直接的な関連は認めなかったものの、高脂肪食摂取および肥満が脂肪組織の脂肪分解を促進すると癌細胞内のMIC-1が上昇し、MIC-1分泌が癌周囲間質細胞とクロストークすることにより間質細胞からサイトカインが放出され、さらなる癌増殖を引き起こすvicious cycleを見出した。本成果は論文で報告し(。Huang M, Narita S, et al. Cancer Commun. 2021 May;41(5):389-403.)、本年行われる国際学会で報告予定である。
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