研究課題
ピロリ菌は胃がんの発がん細菌である.その発がん要因としてはIV型分泌装置を介してホ スト細胞内に分泌されるCagAタンパクががんタンパクSHP2を活性化し異常増殖シグナルを 生成すること等が分かっているが,非発がん型cagA株やcagA-株がいかにホスト細胞のゲノ ム変異・エピゲノム異常を引き起こし発がんに至るのか,世界中で研究が進むものの詳細は 明らかになっていない.そこで本研究では,発がんハイリスクピロリ菌の選択的除菌 治療への基盤を創生する事を目的として,ヒトゲノムデータとピロリ菌ゲノム・DNAメチル化(メチローム)データを統合する申請者のオミックス解析技術を駆使して,ピロリ菌東アジア株110株の層別化により除菌すべきピロリ菌の特徴解明を行った.(A)ピロリ菌日本株59株(がん由来株,潰瘍由来株)と東アジア株51株(非がん・非潰瘍株)の完全ゲノムの決定,メチローム解析,DNAメチル化のモチーフ配列(認識配列)解析を行った.(B)東アジア株のうち,3家族9株の家族感染株の遺伝子発現をRNA-seqにて解析し,これと(A)の対応する株の結果を合わせて,申請者らの提唱している適応進化モデルである「メチローム駆動進化」の実態を明らかにした.(C)ピロリ菌の持つ制限酵素に着目し,公共データベースに登録されている宿主(ヒト)変異との対応づけを行い,胃がん発癌とこの制限酵素の関連を明らかにした.
1: 当初の計画以上に進展している
(A)ピロリ菌日本株59株(がん由来株,潰瘍由来株)と東アジア株51株(非がん・非潰瘍株)のPacbioデータのde novo アセンブリを行い,完全ゲノムの決定を行った.さらに決定した完全ゲノムに対してメチローム解析を行い4mC,6mAメチロームを決定し,続いてDNAメチル化のモチーフ配列(認識配列)解析を行い414のモチーフ配列を同定した.(B)東アジア株のうち,3家族9株の家族感染株の遺伝子発現をRNA-seqにて解析した.これと(A)の対応する株のゲノム解析・モチーフ解析結果を統合して,DNAメチル化酵素遺伝子のモチーフ配列決定遺伝子に起こった変異によってDNAメチル化モチーフが変化し,遺伝子発現が変化し,表現型の変化に至るというメチローム駆動進化の実態を明らかにした.(C)当初2年度目以降に計画されていた宿主と相互作用するピロリ菌の因子についての解析を,(A),(B)より得られた候補について行った.より具体的には,ピロリ菌の持つ制限酵素に着目し,宿主(ヒト)変異との対応づけを行った. 公共データベース(TCGA)に登録されている全てのヒトがん遺伝子変異について上述のDNAメチル化モチーフ配列のエンリッチメントの有無を解析し,胃がんにおける有意なエンリッチを検出した.さらに,ピロリ菌におけるこの制限酵素遺伝子の保有率のオッズ比を算出し,がんとこの制限酵素の関連を明らかにした.
(A)今年度決定したピロリ菌110株の完全ゲノム,メチローム,DNAメチル化のモチーフ配列を用いて,次年度以降はゲノムの大規模組み替えや遺伝子(特にDNAメチル化酵素遺伝子)の有無,アレルを明らかにし発がんに関与するゲノム要因候補を抽出する.さらには,これらのメチル化モチーフ配列を比較し,発がんに関連するメチル化モ チーフ候補を絞り出す.(B)今年度明らかにした3家族9株の家族感染株の完全ゲノム,メチローム,DNAメチル化のモチーフ配列,遺伝子発現データを用いて,次年度以降は統合的な解析を行い,メチローム駆動進化のメカニズムを明らかにしていく.(C)今年度に公共データベースの解析によりがん変異への関連を明らかにした「ある制限酵素」について,次年度以降は大腸菌や培養細胞での発現によって実際に変異を誘発すること実験的に解析していく.
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (13件) (うち国際学会 2件)
Cancer Science
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