研究課題
ピロリ菌は胃がんの発がん細菌である.その発がん要因としてはIV型分泌装置を介してホスト細胞内に分泌されるCagAタンパクががんタンパクSHP2を活性化し 異常増殖シグナルを 生成すること等が分かっているが,非発がん型cagA株やcagA-株がいかにホスト細胞のゲノム変異・エピゲノム異常を引き起こし発がんに至るのか,世界中で研究が進むものの詳細は明らかになっていない.ピロリ菌感染は慢性胃炎を経て萎縮性胃炎ないし腸上皮化生を誘発し,胃がん発がんリスクを上昇させるというデメリットを持つが,胃酸を抑え逆流性食道炎を抑えことによって食道胃接合部がんを抑制するというメリットも持つ.また,除菌に用いる薬剤による副作用,耐性菌の出現といったリスクもある.このため,ピロリ菌は除菌すべきでないという立場からの提言もあり,除菌すべきピロリ菌と除菌すべきでないピロリ菌を分類する必要性がある.そこで本研究では,発がんハイリスクピロリ菌の選択的除菌治療への基盤を創生する事を 目的として,ヒトゲノムデータとピロリ菌ゲノム・DNAメチル化(メチローム)データを統合する申請者のオミックス解析技術を駆使して,ピロリ菌東アジア株110 株の層別化により除菌すべきピロリ菌の特徴解明を行った.(A)昨年度に得られたメチル化モチーフと別プロジェクトから得られたデータ,公共データベースのデータを統合して発がんに関与するゲノム要因候補の解析を行った.(B)東アジア株のうち,3家族9株の家族感染株のゲノム・メチローム・トランスクリプトーム統合解析を行い,申請者らの提唱している適応進化モデルである「メチローム駆動進化」のメカニズムを明らかにした.(C)昨年度,ヒトがん変異との対応づけによってがん変異への関連を明らかにした「ある制限酵素」について,大腸菌での発現系を構築し実際に変異を誘発することを実験的に解析した.
2: おおむね順調に進展している
(A)ピロリ菌胃癌株と胃潰瘍株のGWAS解析から14の癌関連SNPsと4つの新規発癌タンパク質の候補を見い出し、この結果について論文を現在投稿中である.また,(C)で着目している「ある制限酵素」遺伝子を胃癌関連遺伝子として再発見し,オッズ比4を得た.(B)DNAメチル化酵素遺伝子のモチーフ配列決定遺伝子の進化を再構築し,その結果起こる遺伝子発現変化を明らかにした.発現変動遺伝子には5mCメチル化酵素が含まれており,これまで解析を行っていなかった5mCメチロームの重要性が浮かび上がった.(C)昨年度がん変異への関連を明らかにした「ある制限酵素」について,大腸菌での発現系を構築した.この制限酵素の発現によって大腸菌のストレプトマイシン耐性変異率が1.5~2桁上昇することが明らかになった.この耐性に関連する遺伝子rpsLについて,実際に起こっている変異を次世代シーケンサーを用いて現在解析中である.
(B)これまで5mCメチロームの解析はPacBioシーケンサーが対応していなかったが,ついにNew England Biolabs社よりTet酵素を用いてメチル化部位を酸化してからという手法が確立された.そこで次年度はこの手法を用いて5mCメチロームを明らかにし,これまでのデータと合わせて全メチロームを得,これと遺伝子発現データを用いて統合的に解析を行いメチローム駆動進化のメカニズムを明らかにしていく.(C)今年度行ったピロリ菌胃癌株と胃潰瘍株の比較解析と,昨年度行なった公共データベースを用いた癌変異解析より共通して浮かび上がってきた「ある制限酵素」について解析を継続する.具体的にはこの制限酵素を大腸菌で発現し,変異頻度を上昇させた株についてストレプトマイシン遺伝子(今年度次世代シーケンシング済み)と全ゲノムの遺伝子変異を解析し,変異シグナチャーを確認することによってこの制限酵素が胃癌変異を引き起こしていることを裏付ける.
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (14件)
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