研究課題/領域番号 |
19K16710
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
寺門 侑美 金沢大学, がん進展制御研究所, 博士研究員 (00803339)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 幹細胞 / 胃がん / マウスモデル |
研究実績の概要 |
胃がんは悪性度の高いがんの一つであり、特に転移や浸潤を伴う胃がんは予後不良である。発がんの主な原因として慢性炎症があげられるが、発がんの詳細なメカニズムは明らかになっていない。さらに、本腫瘍に対する有効な抗腫瘍薬が少なく、新たな治療法開発が期待されている。化学療法において薬剤抵抗性が問題となっているが、原因の一つとしてがん幹細胞の存在があげられる。このことから、がん幹細胞の制御機構の解明は新規治療法を開発するうえで重要な知見となる。しかしながら現在まで、胃がんにおけるがん幹細胞の存在は証明されていない。本研究では、胃の正常幹細胞マーカーおよび他のがん幹細胞マーカーとして知られているLgr5遺伝子に注目し、炎症反応依存的な胃がん発生との関わりを明らかにすることによって、胃がん幹細胞の同定およびLgr5陽性幹細胞のがん悪性化進展における生物学的役割の解明を目的とする。 3次元的にin vitroで形成したオルガノイドを用いて、移植による悪性化モデルを作製し、研究を推進する。上記のGan/ Lgr5-DTR-EGFPマウスの胃から、腫瘍上皮細胞を採取してオルガノイドを作製した。腫瘍細胞の悪性化形質を誘導するため、TCGAのデーターベースから抽出した、ヒトの胃がんで高頻度に変異が見られる遺伝子をオルガノイドで強制発現または発現抑制させ、腫瘍細胞の生存や分化・増殖、および浸潤などの形質変化や上皮間葉転換(Epithelial-mesenchymal transition: EMT)について検討をおこなった。さらに、それらのオルガノイドをマウスの胃に同所移植し、生じた胃腫瘍部のLgr5陽性細胞における分化マーカー(Tff2、Muc5ac等)を解析するとともに、DTの投与によって腫瘍が退縮するかを検討したところ、Lgr5陽性細胞を枯渇した際に腫瘍の収縮が顕著にみられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
in vivoの解析は、マウスモデルの作製・解析に時間を要するため、3次元的にin vitroで形成したオルガノイドを用いて、移植による悪性化モデルを作製し、研究を推進する。上記のGan/ Lgr5-DTR-EGFPマウスの胃から、腫瘍上皮細胞を採取してオルガノイドを作製した。 腫瘍細胞の悪性化形質を誘導するため、TCGAのデーターベースから抽出した、ヒトの胃がんで高頻度に変異が見られる遺伝子をオルガノイドで強制発現または発現抑制させ、腫瘍細胞の生存や分化・増殖、および浸潤などの形質変化や上皮間葉転換(Epithelial-mesenchymal transition: EMT)について検討をおこなった。さらに、それらのオルガノイドをマウスの胃に同所移植し、生じた胃腫瘍部のLgr5陽性細胞における分化マーカー(Tff2、Muc5ac等)を解析するとともに、DTの投与によって腫瘍が退縮するかを検討したところ、Lgr5陽性細胞を枯渇した際に腫瘍の収縮が顕著にみられた。
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今後の研究の推進方策 |
ヒトの胃がん検体においても、マウスモデルを用いた研究結果と同様な結果が得られるか検討するため、ヒト胃がん患者の腫瘍組織および周辺の正常上皮から樹立したオルガノイドにCRISPR/Cas9システムを用いて、LGR5遺伝子座にEGFPを導入しLGR5遺伝子の発現を可視化する。そして、マウスオルガノイドの実験で、浸潤やEMT誘導などの悪性化にかかわる表現型が見られた遺伝子については、その遺伝子をヒトの胃がんオルガノイドに導入し、免疫不全マウス(NOGマウス)への移植実験を実施する。 また、マウス・ヒト由来のオルガノイドの移植モデルで、脈管浸潤やリンパ節、遠隔転移が認められたモデルを用いて、薬剤投与実験を行う。具体的には、胃がん標準治療で使用されているタキソール、イリノテカン等の化学療法やEGFR阻害薬の効果を、Lgr5陽性細胞存在下とDT投与によってLgr5陽性細胞を枯渇させた状態下で比較して解析を行う。この実験を通して、Lgr5陽性細胞が治療抵抗性や再発に関与するかが明らかとなる。
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