研究課題/領域番号 |
19K16711
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
西川 義浩 神戸大学, 科学技術イノベーション研究科, 特別研究員(PD) (80802785)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 膵癌 / ELF3 |
研究実績の概要 |
ELF3はETSファミリーに属する転写因子の一つである。正常組織においては、細胞周期、分化、増殖、アポトーシスのコントロールなどを行っているとされているが、近年各種癌における発現の異常が報告され、注目されている。一方、膵癌は多数の遺伝子異常の蓄積により、化生性変化 (ADM; acinar-to-ductal metaplasia) 、膵前癌病変 (PanIN; pancreatic intraepithelial neoplasia) を経て多段階に浸潤癌(PDAC; pancreatic ductal adenocarcinoma)へと至ることが知られている。膵臓において免疫化学染色によるELF3の発現を評価したところ、正常膵では発現が低いものの、膵前癌病変から進行癌に至るまで強く発現することを確認した。ELF3が、膵癌形成に関与する可能性が考えられたが、これまでに膵癌におけるELF3の具体的な機能解析はなされていない。本研究では、ELF3が正常膵組織・膵癌において果たす役割の解明と、それが膵癌の病態形成にいかに寄与するか、治療標的となり得るかを明らかにすることを目的とした。 そのため、令和2年度は、(1)膵癌マウスモデルとElf3 conditionalノックアウトマウスを用い、膵癌形成におけるElf3の役割の検討をin vivoで行った。(2)上記マウスにおいて形成された膵癌から細胞株を作成し、膵癌におけるElf3が果たす役割の詳細な解析をin vitroで行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ELF3が正常膵組織・膵癌において果たす役割の解明と、それが膵癌の病態形成にいかに寄与するか、治療標的となり得るかを明らかにすることを目的に、令和2年度は下記の検討を行った。 (1)膵癌形成におけるElf3が果たす役割の検討:Cre/LoxP systemにより膵臓に特異的に遺伝子変異を導入可能な膵癌モデルマウスと、Elf3 floxマウスを掛け合わせたマウス(Pdx1-Cre;LSL-KrasG12D;LSL-p53R172H;Elf3 flox/flox)を作成した。同マウスを経時的に評価したところ、Elf3ノックアウトマウスにおいて、コントロールマウスに比較して、膵病変の形成の増悪を認め、Elf3が膵癌形成において、腫瘍抑制的に働いていることが示唆された。一方で、同時に作成予定であったElf3の過剰発現モデル(Rosa26-LSL-Elf3)に関してはうまく機能していないことが判明し、再度作成をやり直しており、まだ完成に至っておらず、研究がやや遅れている原因となっている。 (2)膵癌形成においてElf3が果たす役割のメカニズムの解明(in vitro, ex vivo):上記膵癌マウスモデルで形成された膵癌から、細胞株を作成した。細胞株を各種assayを用いて評価するとともに、RNAシーケンスに提出し、Elf3が膵癌において果たす役割の詳細なメカニズムの解明を図った。膵癌において重要とされるいくつかの因子の変化を認め、現在その解析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は、まずは上記の膵癌マウスモデルおよび膵癌細胞株を用いて更なる解析を進め、ELF3が膵癌において果たす役割の検討を行う。その上で、(1)ELF3が膵癌の治療標的となり得るか検討を行う。(2)作成が遅れているElf3の過剰発現モデル(Rosa26-LSL-Elf3)を完成させ、Elf3の発現上昇が腫瘍抑制的に働くか検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新規マウスの作成の遅れにより、一部の実験が予定通りに進まなかったため、2020年度に使用予定の使用予定の予算と実際の使用予算に差が生じてしまった。実験計画の遅れを取り戻すことにより、2021年度に繰り越した予算を予定通り使用する方針としている。
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