研究課題/領域番号 |
19K16716
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
比嘉 綱己 九州大学, 生体防御医学研究所, 学術研究員 (60826238)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | がん幹細胞 / 組織幹細胞 / 静止状態 / 細胞周期 |
研究実績の概要 |
各種臓器のがんにおけるp57陽性細胞のアブレーションを目的として、p57-2a-DTRマウスの作製を行った。申請時までにキメラマウスの作製が完了していたが、その後生殖系列伝播を確認し、現在当該マウスの十分な数のコロニーが得られている。このマウスにジフテリア毒素(DT)を投与すると、腸管や腎臓などで緑色蛍光で標識されるp57陽性細胞がほぼ完全に殺傷されることを確認した。したがって、本マウスを用いてあらゆる組織や病変におけるp57陽性細胞のアブレーションが可能になったと考えられる。 しかしながら、p57-2a-DTRマウスはDT投与後副腎に障害をきたしてしまい、数日で死に至ることが確認された。このことは、自然発がんマウスモデルにおいてp57陽性細胞をアブレーションすると、別臓器の障害によって短期間で個体が死亡してしまうため、p57陽性のがん細胞を標的としたがん治療の効果を確認することが困難であることを強く示唆している。 そこで、p57-2a-DTRマウスから各種のがんオルガノイドをin vitroでの遺伝子改変によって作出し、これらを野生型マウスに移植した上でDT投与を行うことで、がん細胞のみでp57陽性細胞をアブレーションできる実験系を樹立することを試みた。現在、腸管腫瘍、胆管がん、膵がんなどのオルガノイドの作出に成功し、さらにこれらを野生型マウスに移植することで効率的に腫瘍が発生することが確認できている。 今後は上記の実験系を用いて、申請内容の通りp57陽性がん細胞のアブレーションを行ってその治療効果を確認するとともに、p57陽性がん細胞を維持する、あるいはがんの治療標的となりうる分子メカニズムの探索を進めていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本申請課題において作製したp57-2a-DTRマウスではDT投与により効率的にp57陽性細胞を殺傷できることが複数の組織学的実験によって確認できていることから、p57陽性細胞アブレーションの実験系は確立できたと考えられる。 当該マウスにおいてDT投与数日後に個体が死んでしまうことは想定していなかったことであり、当初予定していた自然発がん個体をそのまま用いたがん治療実験は困難となった。しかしながらこの問題はオルガノイド移植系を用いることで回避可能であり、実際にp57-2a-DTRマウスに由来する各種がんオルガノイドの作製やその移植実験の確立に成功している。 したがって必要な実験系はほぼ確立できたと考えており、当該実験系を用いて2020年度内には申請課題の検証を完遂できると推測している。
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今後の研究の推進方策 |
p57-2a-DTRアリルを有するがんオルガノイドの移植系を用いて、p57陽性がん細胞のアブレーションによるがんの治療効果を検証する。 p57陽性細胞はがん細胞集団の中でも稀少な細胞であるため、治療実験においては既存のがん治療との組み合わせが不可欠であると考えている。現在、治療実験を行う上で使用する抗がん剤の種類や濃度、タイムコース等の条件検討を行っている。具体的には、腸管腫瘍に対しては5-FUやオキサリプラチン、膵がんに対してはゲムシタビンなどの抗がん剤の検討が進行中である。さらに、近年PD-1やCTLA-4を標的としたがん免疫療法が注目されていることから、今後の研究においてはこれらを標的とする抗体との組み合わせも試していきたいと考えている。 p57陽性がん細胞が治療後再発の責任細胞であることが確認できた場合、これらを維持する分子メカニズムを探ることで実際の治療における分子標的を探索する。具体的には、p57陽性および陰性のがん細胞集団、またこれらに対して抗がん剤治療あり・なしの4群について、集団レベルないし1細胞レベルでのRNA-seqやChIP-seq、ATAC-seq等を行うことで、p57陽性がん細胞の機能特性を規定する分子機構を探る。これらの次世代シークエンス解析は当研究室ですでに日常的に施行しており、データ解析にも習熟していることから、実験条件が決まり次第すぐに施行できると考えている。
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