脳に発生するグリオーマは、腫瘍関連マクロファージ/ミクログリア(TAM)によって保護され、集学的治療を施しても予後が非常に悪い。報告者は、グリオーマと腫瘍微小環境を多層の構造物(グリオーママルチレイヤー)としてとらえ、腫瘍組織と正常組織の境界付近で炎症性のM1型ミクログリアが一過性に増加すること、さらには、腫瘍形成能が高い細胞株では、M1型ミクログリアが少ないことを明らかにした。本申請課題では、TAMを構成するミクログリアのサブタイプに着目し、ミクログリアの分極化を制御することで、グリオーマの進展抑制を試みた。 2022年度では、2021年度に得られた、U87-CSCが既知の癌幹細胞マーカーであるSSEA-1を高発現しており、培養条件下における癌幹細胞のモデルとして有用であるという結果から、SSEA-1についてソーティングを行ったU87-CSCを移植したマウスにおけるSSEA-1陽性細胞数と腫瘍サイズ、およびM1型ミクログリアの経時的変化についての相関を調べたが、有意な結果は得られなかった。 研究期間全体を通じては、グリオーマ細胞株U87MGから樹立したU87-CSCが培養条件下で癌幹細胞モデルとして有用であることを示し、U87-CSCを移植したマウスでは、M2型ミクログリアマーカーであるCD206の陽性細胞が増加していることが示唆された。また、TAMとの分子的な相関関係を示すには至らなかったが、U87-CSCのSSEA-1陽性細胞集団が、グリオーマにおける生存率を低下させる可能性を見出した。
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