研究課題/領域番号 |
19K16726
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研究機関 | 福岡歯科大学 |
研究代表者 |
武石 幸容 福岡歯科大学, 口腔歯学部, 助教 (00758055)
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研究期間 (年度) |
2020-03-01 – 2024-03-31
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キーワード | 上皮間葉転換 / 癌 / クロマチン動態 / アポトーシス / DNA損傷 |
研究実績の概要 |
上皮間葉転換(EMT)を促進する増殖因子 TGF-βによってEMTを誘導し、EMT誘導前後のクロマチン動態の変化をエピゲノムの手法を用いて解析する。そのため正常細胞と癌細胞を用いてEMTの誘導が起こることを確認した。 正常細胞として用いるヒト表皮角化細胞株 HaCaT細胞(HaCaT)は、既にEMTに関する報告が出ている。実際、培地にTGF-βの添加し48時間後に観察すると細胞の形状が細長い形をした扁平状に変化していることが確認できた。またF-アクチンに高い結合力を示すペプチド ファロイジンを用いて細胞染色を行った結果、TGF-β添加によってアクチンフィラメントの形成が有意に観察された。さらに発現タンパク質の変化をウェスタンブロット法により調べた結果、上皮系マーカーのケラチン13、ケラチン15の発現量が低下し、間葉系マーカーのフィブロネクチンの発現量が増加した。これら結果は、表皮細胞であるHaCaTがTGF-β添加によって間葉系細胞の特性を獲得しつつあることを意味する。 一方、口腔癌細胞としてSAS細胞、HSC-4細胞、HSC-3細胞を準備し、EMTの誘導が起こるか調べた。HaCaTと同様にTGF-β添加-48時間後に細胞を観察したところ、SAS細胞とHSC-4細胞のみに細胞質が大きく肥大する変化が見られた。両細胞はファロイジン染色においてもアクチンフィラメントの形成が観察された。発現タンパク質の変化も同様にウェスタンブロット法により調べた。SAS細胞はフィブロネクチンの発現量の増加が確認されたが、上皮系マーカーは検出できなかった。HSC-4細胞はHaCaTと同様に上皮系マーカーが減少し、間葉系マーカーが増加した。HSC-3細胞は上皮系マーカーのケラチン15のみ減少が確認できた。 他のマーカータンパク質などを用いて正常細胞/癌細胞間におけるEMT誘導の違いの解析に適した細胞を判断したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の再開が年度末の2月スタートであったため、実施から報告までのスパンが短かった。そのため研究の条件検討が不十分なところがまだある。 しかし本年度中に研究に使用する細胞をある程度しぼることができたため、研究のスピードを加速させることができると考える。
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今後の研究の推進方策 |
EMT誘導の正常細胞との比較に用いる癌細胞の検討が不十分である。 ウェスタンブロット法で検出できなかった他の代表的な上皮系マーカー、間葉系マーカー、転写因子などを各細胞のRNAを回収し、リアルタイムPCR法を用いて発現の変化を定量し正常細胞との比較に用いる癌細胞を絞りたい。 特定でき次第、正常細胞/癌細胞間でクロマチン構造の制御に関与しているヒストンの修飾状態を比較する予定である。TGF-β によるEMT誘導を行い、誘導前後の細胞から得た細胞抽出液をヒストン修飾を特異的に検出できる抗体を用いたウエスタンブロット法にて解析する。ヒストン H3の4番目、27番目のリジン(H3K4, H3K27)のメチル化修飾の変化が他の細胞で報告されていることから正常細胞/癌細胞間にも同様の修飾の変化が期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験の再開が年度末である2月であったため、使用可能期間が非常に短かった。また新型コロナウイルスの影響により学会等が参加することができなかった。 翌年度はウェスタンブロット法や免疫染色に用いる抗体やリアルタイムPCR法に用いる蛍光プローブを多用する予定なのでこれら購入費に充てる予定である。特にヒストン修飾等の検出に用いる抗体はリン酸化、アセチル化、メチル化などを検出させるため種類も多く、総額が高額となる。新型コロナウイルスの対策の上で学会等に参加し、研究成果を発表したい。
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