研究課題
複雑ながん代謝を理解することは新たながん治療法開発につながる。解糖系律速酵素ホスホフルクトキナーゼ(PFK1)の活性抑制による解糖系代謝フローの切替はペントースリン酸経路の亢進、それによる酸化ストレス耐性の向上によりがんの悪性化に寄与することが知られるが、我々はこれに加えて、がん転移に関与する運動性をも亢進させることを独自に見出した。そこで本研究では「複雑・多様ながん代謝がどのようにがんの悪性化に寄与するか」の理解を目指すため、解糖系代謝フロー切替によるがん細胞の悪性形質獲得機序の解明を目的とした。前年度までにPFK1ノックアウト細胞とPFK1再導入細胞のトランスクリプトーム比較解析と遺伝学による機能阻害実験等を行い、解糖系代謝フロー切替によりがん細胞の運動性を亢進させる責任遺伝子候補を同定していた。本年度は当該遺伝子が責任遺伝子であることをより確かにするための遺伝学実験を行った。運動性が低下しているPFK1再導入細胞に責任遺伝子候補を強制発現した結果、細胞遊走が亢進したことから、当該遺伝子が細胞運動に関わることが明らかとなった。また代謝フロー切替による細胞遊走亢進に一般性があるか、培養正常細胞を用いて検証した。化合物によるPFK1活性抑制により、正常細胞も細胞運動性が向上したことから、解糖系代謝フロー切替による細胞運動性亢進はある程度一般性があることが示唆された。以上よりPFK1の活性抑制による解糖系代謝フローの切替が細胞の運動性を高める機序の一端を解明できた。
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Nature Chemical Biology
巻: 17 ページ: 335、343
10.1038/s41589-020-00676-4
https://www.riken.jp/press/2020/20201110_1/index.html