第2世代のALKチロシンキナーゼ阻害薬(ALK-TKI)であるアレクチニブは、ALK融合遺伝子陽性肺癌(以下、ALK肺癌)に対し、第1世代ALK-TKIであるクリゾチニブよりも奏効率が高く脳転移や髄膜癌腫症(LMC)などの中枢神経系病変に対する有効性も高いが、長期の治療により耐性となる再発症例が徐々に問題になりつつある。本研究では、ALK肺癌のLMCに焦点を絞り、LMCにおけるアレクチニブ耐性機構を解明し、耐性を克服する治療法を見出すことを目的とした。 まず、マウス髄腔内へALK肺癌株(A925L)を移植し、アレクチニブを連日経口投与し、再発した腫瘍から耐性株(AR)を樹立した。AR細胞においてアレクチニブ耐性を惹起する既知のALK遺伝子の変異は検出されなかったが、親株と比較してAR細胞ではEGFRリガンドであるアンフィレグリン(AREG)の発現が上昇しており、これによりEGFRのリン酸化が亢進していることを見出した。AR細胞においてEGFRまたはAREGをノックダウンすることでアレクチニブへの感受性が回復したことから、AREGの発現上昇がアレクチニブ耐性に深く関与していることが示唆された。また、AR細胞においてアレクチニブにEGFE-TKIを併用することで感受性が回復することがin vitroおよびマウスLMCモデルを用いたin vivoにおいて示された。さらに、患者から採取された髄液中のAREG濃度を測定した結果、アレクチニブ耐性となったALK肺癌のLMC患者の髄液では、EGFR-TKI耐性となったEGFR変異非小細胞肺癌のLMC患者の髄液またはLMCのない患者の髄液と比較して高いレベルでAREGが検出され、実臨床でのLMCにおけるアレクチニブ耐性にAREGが関与していることが強く示唆されたことから、ALKとEGFRを標的とした治療戦略が有用であることが示唆された。
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