高カロリー・脂肪過多食生活下にある現在、メタボリックシンドロームと関連が強いNAFLDは増加傾向にあり、それらを背景とするHCCの発生は激増してい る。本研究の目的はNAFLD-HCCの生物学的特徴を解明し、その細胞増殖や遊走・浸潤能など悪性度に関連する因子を同定することで治療への臨床応用を目指すことである。 これまでの研究結果からNAFLDーHCCの増殖機構に関してS1P-S1PR2 pathwayに着目し研究を進めた。ヒト肝細胞癌株3種(HLE、HepG2、HuH7)におけるS1PR2の発現をwestern blotで確認した。S1PR2の発現はHLE=HepG2>HuH7であり、3種の細胞株を用いて研究を進めた。 2年目までにS1P添加実験、S1PRs阻害剤添加実験(S1PR2阻害剤であるJTE013、S1PR1/R3の阻害剤であるFTY720を使用した)、S1PR2ノックダウン(KD)によりS1PR2を発現するHLEがS1P-S1PR2 pathwayにより細胞増殖を誘導することを確認した。 これまでにNAFLD環境を模倣したオレイン酸(OA)添加実験でHLE、HepG2、HuH7の中でHLEのみが細胞増殖を示すことを報告した。3年目の最終年はOA存在下でS1P-S1PR2 pathwayにより細胞増殖が誘導されているか検討した。OA添加時にS1PRs阻害剤添加実験、S1PR2KD実験を行い細胞増殖が抑制された。OA添加培養上清液中のS1PをELISA法で測定したところ、S1P濃度はS1PR2KDにより有意に上昇した。 肝細胞癌切除検体でのS1PR2の発現は、C型肝炎由来HCCは周囲肝細胞に比較して発現は低下していたが、NAFLD-HCCは発現の低下は認めなかった。 NAFLDを背景とするHCCの増殖機構にS1P-S1PR2 pathwayが関与していることが示された。
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