研究課題/領域番号 |
19K16741
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
賈 維臻 大阪大学, 微生物病研究所, 助教 (40791281)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | Galectin-3 / 白血病細胞 / 細胞周期 |
研究実績の概要 |
令和3年度は「白血病幹細胞と正常な造血幹細胞におけるGalectin-3(Gal-3)制御機構「差異」の同定」を中心にして研究活動を進めた。まず、ヒト白血病細胞におけるGal-3の発現を検討したところ、多くの白血病細胞株(HL60, KG-1a, HEL92.1.7, MOLT-4, SKW-3, NALM-6)においてGal-3の発現が低下していることが認められた。また、加齢マウスの造血幹細胞ではGal-3の発現が顕著に減少し、Gal-3を欠損させた加齢マウスでは急性骨髄性白血病と類似した症状を呈示することを発見した。以上の結果より白血病幹細胞増殖ではGal-3による細胞周期制御機構が破綻していることが示唆された。造血幹細胞の癌化とGal-3の発現との相関性及び下流シグナル伝達系の検討を行うため、野生型あるいはGal-3を欠損させたマウス由来の造血幹細胞を回収し、標的遺伝子群を網羅的に解析した。その結果、Gal-3の欠損により造血幹細胞における白血病の発症及びがん幹細胞の維持に関連する因子であるNR0B1、LEF1及びCDH1などが有意に増加することが認められた。このことはGal-3の発現制御により造血幹細胞の癌化及びがん幹細胞の増殖を抑制することが可能であることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
MLL-ENLの導入によりGal-3を欠損させた、あるいはGal-3を過剰発現させたトランスジェニック白血病の発症マウスモデルを作成することは、白血病の発症に想定以上に時間を要した。最終的に研究目標の達成を考慮するため、次の段階「抗腫瘍効果の評価」について検討はRegnase-1を欠損させた白血病の発症マウスモデルを使用することを決めた。そのため、1年間の事業期間延長を行い、科学研究費助成事業補助事業期間を令和元年度~令和3年度の予定から令和元年度~令和4年度に変更した。これに伴い研究実施計画を変更したため、申請時の実施予定よりは進捗に遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
白血病の治療への適用について検討を進める。リボヌクレアーゼであるRegnase-1を欠損させた白血病の発症マウスモデルを用い(Kidoya H. et al., Nat Commun. 2019)、白血病細胞でのGal-3過剰発現が白血病幹細胞の自己複製の抑制により、白血病発症を抑制するかどうかを検討する予定である。そこで血球系細胞に特異的にRegnase-1の発現を欠損させるマウス(Vav-1-Cre X Regnase-1fl/fl)とGal-3を過剰発現させたトランスジェニックマウス(Regnase-1fl/fl-Gal-3 Tg)を交配させたマウス(準備済み)由来の造血幹細胞では白血病の発症が抑制されうるかどうかを解析する。 また、Gal-3の過剰発現によるヒト白血病に対する治療効果を検討するため、Gal-3を過剰発現させたヒト白血病細胞株を免疫不全マウス(NOD-scid Il2rgnull)に移植し、白血病細胞の生着や増殖及び移植したマウスの生存率などを検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在までの進捗状況の項で記載したが、Gal-3を欠損させた、あるいはGal-3を過剰発現させたトランスジェニック白血病の発症マウスモデルの作成が遅滞しており、事業期間の1年延長に伴い研究実施計画を変更したことにより、次年度使用額が生じた。今年度はGal-3及び下流シグナルを同定した標的遺伝子の選別を可及的速やかに行い、抗腫瘍効果の評価を実施できるように進める予定である。
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