研究課題/領域番号 |
19K16742
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
村松 史隆 大阪大学, 免疫学フロンティア研究センター, 特任研究員 (90803627)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 腫瘍血管 / 血管新生 / 生体イメージング |
研究実績の概要 |
本研究は「腫瘍細胞運動による血管伸長」の分子メカニズムを解明することで、新規の腫瘍血管形成モデルを構築し、がん治療への応用法を模索するものである。本年度は、(1)腫瘍細胞運動に制御される血管伸長モデルの確立、および(2)腫瘍細胞運動を軸とした細胞クラスタリング、の2つの観点から研究を行った。 (1)マウス担癌モデルの腫瘍血管新生を24時間以上連続的に観察し、個々の腫瘍細胞と血管先端細胞の細胞分裂度・運動ベクトル量の数理的解析を行った。GL261神経膠腫や、CT2A星細胞種の解析を通じて、神経膠腫に一般性の高い血管新生モデルが構築され、腫瘍細胞と血管内皮先端細胞の移動速度に強い正の相関性が見出された。また、化学療法によるがん治療効果の改善を目的とし、マウス担癌モデルに対して、抗VEGF療法、化学療法、およびこれらの併用療法を行い、腫瘍細胞のアポトーシス、細胞分裂、細胞運動性および腫瘍血管の退縮の有無を生体イメージング解析した。その結果、化学療法耐性細胞は成熟した血管の近傍に多く分布し、分裂を繰り返すことが明らかとなった。また、この薬剤耐性細胞の出現・維持には、腫瘍血管に由来するセルロプラスミンが重要な役割を担う可能性が示唆された。 (2)腫瘍細胞運動と血管伸長の運動ベクトルが強く相関する、径2mmサイズ大を超える組織から、腫瘍細胞をセルソーターにて回収し、シングルセルRNA-Seq解析を行った。その結果、腫瘍細胞は4つのクラスター群に分類され、その一つに血管内皮増殖因子VEGFAおよび転写因子HIF1aを強く発現する細胞が含まれることが分かった。この特徴はGL261細胞やLLC細胞に共通して認められたが、Gene Ontology解析ではこのクラスター内で、異なる細胞腫間でも共通して発現する遺伝子群や、シグナルパスウェイは認められなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
生体イメージングを中心とした腫瘍血管形成モデルの確立はおおむね順調に進んでいる。 (1)複数のがん細胞種における腫瘍血管形成のモデル化を試みたが、肺がんLLC細胞の観察は技術的に困難であったため、神経膠腫GL261および星細胞腫CT2Aの観察を行った。血管新生や癌細胞の浸潤方向・速度・分散を中心としたデータ解析の結果、神経膠腫において一般性の高い血管形成モデルの確立に成功したといえる。数理モデルの構築は、未だ達成されていないが、今年度は引き続き化学療法によるがん治療効果と血管微小環境との関連性評価を行う予定である。一部はすでに前倒して解析できており、癌細胞に薬剤耐性を与える血管因子としてセルロプラスミンを同定できた。 (2)VEGFaを発現する細胞集団に着目し、血管新生を促進するがん細胞のクラスリングを試みた。血管新生を強く誘導する遺伝子プロファイルを示す細胞群は、複数のがん組織に認められたが、これらと細胞運動関連遺伝子との強い相関性は認められなかった。このことは、腫瘍血管新生における血管網のパターン形成が、内皮細胞の応答によって決定される可能性を示唆している。そのため、腫瘍細胞運動関連シグナルの解析は内皮細胞における機械シグナル受容体、ケモカイン受容体の遺伝子発現パターンに着目して解析を行う。 一部の研究計画は前年度中に達成できていないものもあるが、各種の実験条件や代替手段の検討により、研究計画の大きな変更なしに引き続き研究を進捗させられる予定である。また、令和2年度に予定している研究計画の一部を前倒しで実施しており、全体の研究計画の進捗状況としては、おおむね順調に進展していると考えられる
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今後の研究の推進方策 |
新しい血管新生モデルに基づいた、新規がん治療法の模索を引き続き行う予定である。抗がん剤耐性腫瘍細胞は、強く血管微小環境に依存しており、なかでも内皮細胞におけるセルロプラスミンの発現は、薬剤耐性遺伝子の誘導に関与する可能性が高い。セルロプラスミンは各種の金属イオンのホメオスタシスに重要と言われており、腫瘍環境における金属イオン分布に関して、蛍光標識試薬をもちいた生体イメージング解析を行う。また、セルロプラスミンノックアウトマウスの作製・解析を通じて、腫瘍内皮細胞が薬剤耐性微小環境の形成を促す分子メカニズムの解明を試みる。 前年度に得られたシングルセル遺伝子発現解析結果より、腫瘍細胞運動に連動して変化する血管新生促進因子の候補遺伝子を選定する。伸長する血管内皮細胞にて作用する遺伝子は、機械シグナル受容体、ケモカイン受容体、VEGFなどの増殖因子受容体が候補として予想される。これら血管内皮側の因子については、チューブ形成能アッセイ、大動脈リングアッセイなどを利用したin vitro腫瘍血管新生解析系にて遺伝子ノックダウン実験を行い、内皮伸長パターンに影響がでる遺伝子候補を絞りこむ。最終的にはその遺伝子ノックアウトマウスを用意し、担癌モデルを作製し腫瘍血管分布への影響を調べる。
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