研究課題/領域番号 |
19K16746
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
三橋 惇志 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学域), 特任助教 (00833732)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 癌 / 免疫チェックポイント分子 / 血管新生 / 線維細胞 |
研究実績の概要 |
肺癌治療においてPD-1(Programmed cell death -1)やリガンドであるPD-L1を標的とした免疫チェックポイント阻害薬は中心的な役割を果たしており、既存治療薬との併用効果についても注目を集めている。血管新生阻害薬である抗VEGF抗体と、抗PD-L1抗体との併用効果を示唆する報告もなされているが、その作用機序については不明な点が多い。近年申請者はコラーゲン産出能を有する骨髄由来細胞である線維細胞(fibrocyte)が抗VEGF抗体投与下の腫瘍組織へ集積し、治療耐性化に寄与することを報告した。Fibrocyteは樹状細胞に匹敵する抗原提示能を有することが既に報告されており、さらに申請者は免疫チェックポイント分子であるPD-L1、共刺激分子であるCD86の高発現を見出している。本研究ではfibrocyteの抗腫瘍免疫への機能を解析することで、免疫チェックポイント阻害薬および血管新生阻害薬併用治療の作用機序解明を目的としている。 令和元年度の目的として、一つ目にマウス中皮腫細胞株の皮下移植モデルにおいて、血管新生阻害薬、免疫チェックポイント阻害薬併用効果の検討を掲げた。担癌マウスに抗VEGF抗体を投与したところ、腫瘍増殖抑制効果が見られない低用量においても血管新生が抑制され、腫瘍内にfibrocyte集積が見られた。低用量の抗VEGF抗体および抗PD-L1抗体の併用により腫瘍抑制効果の増強、腫瘍内へのCD8陽性T細胞集積を認めた。二つ目に、fibrocyteをマウス皮下腫瘍組織へ移植した際の免疫チェックポイント阻害薬治療効果への影響の評価を掲げた。この検討において、併用群で腫瘍増殖抑制効果の増強、腫瘍内CD8陽性T細胞数の増加を認めた。本研究により、抗VEGF抗体治療により局所集積したfibrocyteが抗PD-L1抗体の治療効果に寄与する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和元年度の目標として掲げた上記2研究に関しては、検討が進んでおり、おおむね順調に経過していると考えられる。 令和2年度以降の目標としては、以下の2研究を掲げている。①初年度に実施したマウス腫瘍細胞株およびfibrocyteの共移植モデルにおいて、移植するfibrocyteをCD80/86等のT細胞への抗原提示に強く寄与する因子のノックアウトマウスより分離し、抗PD-L1抗体による治療効果へ与える影響を検討する。②免疫チェックポイント阻害薬による治療を受けた肺癌患者の腫瘍組織、末梢血中のfibrocyte数を評価し、治療効果との関連性を検討することでfibrocyteのバイオマーカーとしての有用性を評価する。 上記①についてはすでに研究に着手しており、共刺激分子のノックアウトマウスをcrispr cas9 システムにより作成している。今後in vitroでのfibrocyte抗原提示能への影響の評価に引き続き、腫瘍組織移植時の機能検討を進めていく。上記②については免疫チェックポイント阻害剤を受けた肺癌症例の十分な集積が困難である可能性もあり、今後さらに条件を検討していく。 よって、現時点での総合評価として、おおむね進捗は順調であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
令和元年度の研究目標である、マウス胸部腫瘍細胞株皮下移植モデルにおける免疫チェックポイント阻害剤と、抗VEGF抗体あるいはfibrocyte局所移植の併用に関する検討は、マウス中皮腫細胞株にてその有効性を確認することができた。今後、マウス肺癌細胞株を含む複数の動物モデルにおいて同様の検討を実施する予定である。 令和2年度以降の目標として、血管新生阻害剤の治療効果により腫瘍局所へ集積したfibrocyteが抗腫瘍免疫へ寄与する機序について、抗原提示能を中心にさらに検討を行う。Fibrocyteの抗原提示能が腫瘍微小環境に与える影響を検討するため、抗原提示において重要な役割を果たす共刺激分子CD80/86のノックアウトマウスをそれぞれ作成し、その肺より分離したfibrocyteを腫瘍局所へ移植することで抗PD-L1抗体との併用効果を確認する。本研究を介して、免疫チェックポイント阻害剤および血管新生阻害剤併用療法における新規治療標的、治療効果を予測するバイオマーカーとしてfibrocyteの有用性が示される可能性がある。
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