研究課題/領域番号 |
19K16749
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
有馬 浩太 熊本大学, 病院, 非常勤診療医師 (10792616)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 非アルコール性脂肪性肝炎 / NASH / 肝細胞癌 / 15-PGDH / 代謝物 |
研究実績の概要 |
肝癌はウイルス性肝炎を介したものが主流であったが、感染予防や新規抗ウイルス薬の開発により減少傾向にある。一方、食生活の欧米化などにより肥満や生活習慣病を背景とした非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)由来の肝癌が増加しており、NASH肝癌の発癌予防および新規治療戦略が必要不可欠である。肥満に由来する肝発癌メカニズムとしてPGE2シグナルは最も重要な炎症性シグナルとして世界的に注目を集めており、近年PGE2の分解酵素である15-PGDHの生体内での重要性が認識され始めている。本研究の目的は、15-PGDH発現がNASH肝癌の発癌・進展に与える影響についてNASH肝癌マウスモデルを用いて検証し、同時にその臨床的意義を明らかにすることである。 まずNASH肝癌モデルマウスを用い、実際に約20週齢で背景肝にヒトNASH様の所見を呈し、HCCが自然発症することを確認した。このマウスの15-Pgdh発現をknockoutすることで、自然発症するHCCの数も大きさも著明に増加することが確認できた。また各種免疫組織学的染色を行うことで、15-Pgdh knockoutマウスの方が背景肝の線維化や脂肪細胞が増加しており、NASHの病態がより悪化していることが示唆された。腫瘍組織中のKi-67陽性細胞も15-Pgdh knockoutマウスにおいて増加しており、腫瘍としての悪性度が高いことが示唆された。今後、腫瘍組織中の網羅的なRNA sequencingによる遺伝子発現解析および網羅的代謝物解析を行い、15-Pgdh knockout NASH由来HCC中で活性化または不活化したsignalおよび代謝経路の同定を目指す。今後、これらの知見に基づいて15-PGDH発現がNASH由来HCCに与える影響について詳細に検討を行っていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
臨床サンプルの発現解析、遺伝子改変マウスの供与など、それぞれの研究組織が得意とする多施設での共同研究を展開することができている。in vivo実験系で結果を出すことは一般的に時間を必要とすることが多いが、我々はすでにin vivoで仮説通りの強いphenotypeの差異を得られており、おおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
In vivoにおいて強いphenotypeの差異が得られたため、今後は自然発症した腫瘍を用いて網羅的なRNA sequencingや代謝物解析を行うことで、腫瘍をprogressする下流シグナルの同定を行う予定である。また15-PGDH発現低下に伴うPGE2の蓄積によって免疫細胞などの腫瘍微小環境になんらかの影響が出ている可能性が高く、マウスHCCおよび背景肝内の免疫細胞を抽出し、FACSを用いてどのような免疫細胞分画に変化が大きいか評価を進める予定である。さらに同定した下流シグナルがヒトNASH由来HCCにおいても同様の変化がみられるか、評価を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費の支出が当初予想していたよりも使用しなかった。来年度には合算して使用できる見込み。
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