がん治療は大きく分けて手術、放射線、抗がん剤およびこれらの併用が行われている。手術はがん治療の第一選択となりやすいが、高齢者人口の増加から手術不適合の症例が存在している。さらに抗血栓薬服用患者数も増加しており、これらの患者は出血を懸念して手術を行うことができない。従って、これらの患者に対する新たながん治療法の開発が求められている。 光線力学療法(Photodynamic therapy: PDT)は腫瘍に集積させた光増感剤に低出力のレーザーを照射することで活性酸素の一種である一重項酸素を発生させ、がん組織の細胞を死滅させる治療法である。PDT用の光増感剤としてポルフィリン化合物が従来使用されてきたが、ポルフィリンの腫瘍集積機序の詳細は不明であった。申請者らはこれまでにヘム輸送タンパクHCP1がポルフィリンの輸送をも担うとともに、がん細胞において高度に産生された活性酸素種がHCP1の発現制御を行っていることを報告してきた。一方で、がん細胞においては一酸化窒素の産生も増大しており、様々な細胞内シグナル伝達に関与していることが明らかになってきた。一酸化窒素はそれ自体が反応性に富んでいるが、ミトコンドリアから主に産生される活性酸素種であるスーパーオキシドと容易に反応して、さらなる活性種であるペルオキシナイトライトを生成する。本研究では、PDT増感効果に対するペルオキシナイトライトの関与について検討を行った。マウス由来マクロファージ細胞RAW264にリポ多糖(LPS)を作用させることで誘導型一酸化窒素合成酵素が誘導され、それに伴って一酸化窒素の産生量が増大することを確認した。また、LPS処理細胞にX線照射を行うことでペルオキシナイトライトの産生が増大し、HCP1の発現向上およびポルフィリンの細胞内集積量の増大が起こっていた。これらの結果をまとめて学会発表および論文発表を行った。
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