研究課題/領域番号 |
19K16752
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
戸谷 治仁 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 研究員 (00833097)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 成人T細胞白血病リンパ腫 / HGF / エピゲノム |
研究実績の概要 |
成人T細胞白血病リンパ腫(ATL)は末梢血病変やリンパ節病変、節外病変など多彩な臨床所見を呈する。これら病変部位によって治療奏効は大きく異なり、特に治療抵抗性となりやすいリンパ節など非末梢血におけるATL細胞の特徴を明らかにすることは今後の治療戦略に重要である。 末梢血由来ATL細胞株(MT-1、TL-Om1、ATN-1)、リンパ節由来株(HUT102)のプロテインアレイよりリンパ節由来株においてHGF、CCL2が高率に発現していることを同定し、このうちATL細胞にオートクラインに作用するHGF/c-Metシグナルに着目した。 臨床検体において、リンパ節-末梢血のペアサンプルのHGF発現はリンパ節>末梢血と傾斜が認められた。細胞株におけるHGF過剰発現は有意に細胞増殖能、浸潤能を促進し、ノックダウンによって抑制されることを見出した。また、マウスにおけるin vivo実験でもTL-Om1へのHGF過剰発現は腫瘍形成や臓器浸潤を促進した。 これら発現の違いを生じさせるメカニズムとしてエピゲノム機構に着目し、HGFのエンハンサー、プロモーターにおけるクロマチン修飾解析を行った。ChIP-PCRから、これらの領域では、H3K27AcおよびBRD4はHUT102ではTL-Om1に比べて高く、ブロモドメイン阻害薬であるJQ1によって有意に低下することが明らかになった。HGF発現はJQ1によって抑制され、下流シグナル経路の活性も抑制された。HUT102移植マウスにおけるJQ1治療では、in vitro同様に顕著な抗腫瘍効果と臓器浸潤抑制が認められた。 これらから、非末梢血ATLにおいてHGFはエピゲノム機構により発現制御されており、治療標的として有用であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目標である、ATLにおけるサイトカイン・成長因子の発現解析およびATL動態への作用とエピゲノム調節機構について明らかにし、エピゲノム治療薬の抗腫瘍効果をin vivo、in vitroにおいて解析が完了した。 一方、免疫担当細胞へのエピゲノム治療薬の作用、初発時と再発時のエピゲノム比較については現在進行中である。 前半部分が予定通り進んであり、上記理由とした。
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今後の研究の推進方策 |
分化させたマクロファージに対するエピゲノム治療薬(JQ1)投与前後における、主にサイトカインの発現変化を解析する。ATL細胞との共培養により、腫瘍抑制または促進性作用への影響を確認する。 初発時、再発時におけるATL細胞の遺伝子発現プロファイルを評価し、再発時に発現変化を起こす遺伝子の同定をし、機能解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度に使用した物品については、これまでに購入していた物品を用いることで実験を進めることが可能であった。 次年度については、これまでの結果についての論文投稿関連および、目標の残りのパートについて遂行するために使用する予定である。
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